原発はCO2削減に本当に役立つのか?
原発推進派は、発電時に二酸化炭素(CO2)を生成しないから、地球温暖化抑制のためにも原発は必要だ、と主張します。今回はもっともらしく聞こえるこのロジックが本当に正しいのか?過去のデータを用いて検証してみます。
最初に結論を述べますと、「原発の推進はCO2削減に役立っていなかった」になります。
使用するデータは以下になります。
・原発の発電量:資源エネルギー庁のHPより【第214-1-6】発電電力量の推移
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2019html/2-1-4.html
・CO2排出量:全国地球温暖化防止活動推進センターのHPより
https://www.jccca.org/download/13332
図1
図1は1990年から2017年まで(27年間)の日本の原発発電量とCO2排出量の推移を示しています。縦軸は原発発電量 [億KWh] と CO2排出量[百万トン] の数字をそろえて表示しています。原発発電量は1998年までは毎年増加し、その後増減を繰り返し、2011年に急激に減少しています。これは東日本大震災の影響です。2014年にゼロになってから以降は毎年増えています。一方のCO2は、全期間(1990年から2017年まで)でほぼ横ばいです。この図から考えるなら、原発発電量とCO2排出量とのあいだに何ら関係はなさそうです。
図2
図2はCO2排出量の増減がもっとわかるように、縦軸を拡大したものです。このようにすると、原発発電量とCO2排出量との関係性が考えやすくなります。原発発電量は前述した通り、東日本大震災のあった2011年とその翌年に急激に減少しています。一方、CO2は原発発電量が急減する前の年である2010年から増加に転じています。
CO2は2008年と2009年に大きく減少しています。このとき何があったのでしょうか?2008年9月に米国でリーマン・ショックが発生し、その影響で世界経済は深刻な景気後退に陥りました。このCO2排出量の減少時期は、景気後退による経済活動の縮小が影響していたのかもしれません。CO2排出量の増減を考える際は、経済活動といった要素も考慮する必要があるようです。
図3
図3は図2の最初と最後にグレーの網掛けをしたものです。ここからはデータリテラシーにも関連してきます。
まず、(B)をみてください。原発発電量の増加に伴い、CO2排出量が減少しています。原発推進派はこの部分を切り取って、「原発の推進はCO2削減に効果的」と主張するかもしれません。このように、自説に有利なデータだけを切り取って示すことをチェリーピッキングといいます。
次に、(A)の部分をみてください。CO2排出量は多少の増減があるものの、この期間(1990年から2000年)は、原発発電量の増加に伴いCO2排出量も増加しています。この期間の相関係数を計算すると 0.84 になります。
相関係数とは、2つの異なるデータ間の直線的な関係の強さを表すものです。ここでは原発発電量とCO2排出量の2つです。相関係数は -1 から 1 の間の数値で示されます。一般的に0.7 以上だと「強い正の相関がある」とされます。(一方が増えれば、もう一方も増えるということ。)
この場合、0.84ですから、「原発発電量とCO2排出量との間には強い正の相関がある」ことになります。言い換えるなら「原発発電量が増加すると、CO2排出量も増加する」ことになり、原発の推進がCO2削減に役立っていなかったことを示しています。
ただし、あくまで1990年から2000年の10年間に限ったことです。また、相関があるからといって因果関係があるとは限りません。その点も注意が必要です。
では、図に示した全期間(1990年から2017年)の相関係数はどうなるでしょうか。相関係数は -0.04 となり、両者はほぼ無相関(相関がない)といえます。
以上、過去のデータにより検証した結果、「原発の推進はCO2削減に結びついていなかった」ことになります。