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ごみ問題、SDGs的により効果的な施策とは?

 日本において、ごみ問題に関する近年のトピックといえば、2020年7月1日からはじまったレジ袋有料化でしょう。
 この施策の目的は当初、海洋プラスチックゴミの削減でしたが二転三転し、最後にはライフスタイルの変革、などという抽象的なものになってしまいました。
 レジ袋は有料化されただけです。また、代替品となるエコバッグの大半は石油製品です。エコバッグは製造時に、レジ袋の何倍もの二酸化炭素(CO2)を排出します。温暖化抑止についても、さほど役に立たない施策であることが、この点だけからもわかります。

 さて、いろいろな環境団体のホームページをみますと、ごみ問題について、日本はリサイクル率が低いだとか、ごみを燃焼して発電等に使うサーマルリサイクルは、欧米だとリサイクルに該当しないだとかの主張が目立ちます。
 確かにその通りかもしれませんが、それよりもより環境が改善し、SDGs的にも良い施策をなぜ提案しないのか、不思議に思っています。

 私が考える、そのより効果的な施策とは、開発途上国に対する国際貢献です。
 下図は、世界で実施されている様々なごみ処理の方法の割合を示したものです。
 この図のなかに書かれているように、途上国では、ごみをある場所にそのまま放置するオープンダンプが主流です。理由はいろいろあるでしょうが、コストが安いことが最大の理由かもしれません。

図:世界で実施されている様々なごみ処理の方法の割合
(https://ohtabookstand.com/2022/08/zukai-19-gomizero-05/ より引用)

 オープンダンプサイトは、有害物質であっても分別されずに置かれます。もちろん生ごみもあります。異臭、環境汚染、伝染病などの健康被害といった様々な悪影響があります。

 世界全体で3分の1もあるオープンダンプサイトを、焼却発電に変換できれば、環境汚染や健康被害は大幅に減るでしょう。また、発電により電力を供給できるので、一石二鳥です。さらに、途上国に多い石炭火力の割合を減らすことにもなるでしょう。

 ただし、これまで日本がこのようなことをしているといった話を聞かないことから、この技術で国際貢献するには、解決すべき課題がたくさんあると想像されます。そうでないのであれば、政治家や官僚の怠慢です。

 焼却設備の導入は、かなりの経済的負担となります。また、オープンダンプを採用している多くの国では、ごみを分別するといった意識がそもそもないのかもしれません。分別してごみを回収するとなれば、これもまた経済的な負担が生じます。
 さらに、仮に焼却発電設備を作ったとしても、それを適切に運用するためには、人材育成が必要になります。

 現状ではオープンダンプサイトで、健康被害のリスクを抱えながら、使えそうなごみを拾って生計を立てている人々がいます。
 そうした人たちの生活改善にも、焼却発電の導入は一役買えるでしょう。焼却発電設備の導入は同時に、分別やリサイクルを促進することでもあります。この分野で、新たな雇用を生み出すことができると考えます。

 理想論かもしれませんが、オープンダンプの解消は、日本がチャレンジすべき国際貢献である、と考えます。

 伊藤信太郎環境大臣が、就任会見で環境とエネルギーの問題を同時解決できる「電気の次のエネルギー」に言及し、「発見できると思う」と力説した、とのことです。
"環境相「電気の次」の有望エネ? 省内「ファンタジー」と困惑"(2023/9/24 共同通信)
(https://nordot.app/1078590474091725219)

 そんなファンタジー(空想)を語る前に、環境大臣として、ここで提案しているようなことを関係省庁に働きかけてほしいものです。

2023年09月25日

想定外はあり得ない

 "大雨で市役所停電 市長「想定外」"
(https://news.yahoo.co.jp/articles/8ad6bfb32714b9978150c9fdc9f99f479c08f756)
 先週8日の記録的な大雨は、千葉県、茨城県、福島県内に大きな被害をもたらしました。
 茨城県日立市では、市役所の近くを流れる川があふれ、建物内に水が入り込み、地下の電源設備が水没して、市役所が停電したとのことです。
 この件について、日立市の小川春樹市長は「災害に強いということで新設をした市役所本庁舎がですね、電源機器が水没して停電となったことは想定外の出来事でございました」と、発言しました。

 「想定外」は、東日本大震災のときに、責任逃れとして使われた言葉です。
 今回の件で、災害発生時には市の災害対策本部長となる市長がこの言葉を使ったことに、「だったら、今すぐにでも市長辞任すべきでは?」と思ってしまいました。

 下図は、日立市のホームページで公開されているハザードマップからとってきた図です。
 色のついているところが浸水想定区域です。

図)日立市の内水浸水想定区域から
(https://www.city.hitachi.lg.jp/bousai/hazardmap/map.html?lay=saigai_01# より抜粋引用)

 日立市役所は二本の川が合流する地点(これだけでもその危険性を考慮すべきです)に位置しています。
 二本の川沿いと日立市役所、市役所の東側が浸水想定区域になっています。
 当然、このことは想定内だったでしょう。

 地下に電源設備を置くこと自体は、その重さなどから止むを得ない点もあります。であるなら、どれだけの防水対策を取っていたかが問題になります。仮に大掛かりな防水対策をとっていたとしても、100%安全はあり得ません。

 また、地下の電源設備が水害時に弱いことは、2011年の福島第一原発事故でわかっていたはずです。
 近年では2019年10月の台風19号で、武蔵小杉のタワーマンションが同様の被害に見舞われて、ニュースになりました。

 このようなことから、地下の電源設備が水没する恐れを「想定外」といえるはずがありません。
 ですから、軽々に「想定外」と言ってしまった日立市の市長には、「その任に不適」と思ってしまったわけです。

 市長や知事は、災害時に災害対策本部長として、災害対策の指揮をとるといった役目があります。また、地域防災の責任者でもあります。このことをしっかりと肝に銘じてほしいです。

2023年09月11日

ALPS処理水論争

 福島第一原子力発電所の汚染水から、トリチウム以外の62核種を基準値以下にしたALPS処理水の海洋放出が、8月24日から始まりました。

 中国や韓国の左派政党は、科学的根拠を示さずに日本を批判しています。日本にも反対派はいます。
 そこで、反対派の言い分と、政府や東電等の言い分とを比べてみましょう。

 まず、トリチウムの危険性についてですが、中国や韓国の原発は、ALPS処理水より多くのトリチウムを海洋に既に放出しています。
(https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/shirou_alps/no2/)
 したがって、中国や韓国がトリチウムの海洋放出に反対するのは、二枚舌であり論外です。

 次に、ALPS処理水は、通常の原発から海洋放出される処理水とは違い、トリチウム以外の放射性核種を含んでいるから危険、との指摘があります。

 これについては、Science Portal によれば、「放射性物質は天然、人工を合わせて全部で1000核種ほどあるとされる。東電はそこから、原子炉停止30日後の炉心に存在するだろう核種を評価。水に溶けない核種などを除外し、セシウムやストロンチウムなど62核種をALPSで汚染水から除去する主要なターゲットに定めた。」とあります。
(https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20230824_n01/)

 そして、この62核種について、トリチウム以外の核種は、規制基準未満になるまで浄化する、とあります。
(https://www.env.go.jp/chemi/rhm/r3kisoshiryo/r3kiso-06-03-08.html)

図1)⼆次処理による処理前後の放射性物質の濃度⽐較
(https://www.tepco.co.jp/decommission/information/newsrelease/reference/pdf/2020/2h/rf_20201224_1.pdf より)

 一方、FoeJapan は、基準未満であっても放射性物質の「総量」が示されていないことが問題であるとしています。
(https://foejapan.org/issue/20230801/13668/)
 ただ、なぜ総量がわからないとダメなのか、総量の許容範囲はどの程度と考えるのか、などの説明が見当たりません。

 総量は、現在も汚染水が生産され続けているので、はっきりと示すことはできないでしょう。燃料デブリの取り出し、もしくは、事故炉への地下水等の流入を止めない限り増え続けてしまいます。(ちなみに、燃料デブリの取り出しは、現時点ではほぼ不可能に近い、極めて困難な作業と考えられます。)

 また、上記 FoeJapan のサイトでは「二次処理した結果、どのくらい残留するかもわかっていません」と、あります。
 これについては、「規制基準未満になるまで浄化する」と、環境省や東電のサイトにも書かれているので、核種ごとの「規制基準未満」が、その答えになるでしょう。

 さらに、この FoeJapan のサイトでは point 2 として、ALPSで処理された水に基準値以上の核種があったことがメディアの報道でわかった。とあります。
 これは事実です。しかし、基準値以上の核種が残った処理水を放出するわけではありません。

 私たちは、自然界から常に放射線を浴びています。日本人は平均 2.1 ミリシーベルト/年とされています。
 このなかには、食べ物から受ける放射線(約0.99ミリシーベルト/年)も含まれています。
(https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h28kisoshiryo/h28kiso-02-05-12.html)

 これに対し、電気事業連合会の説明では、海洋放出した場合の影響は桁違いに小さく、 2.1 ミリシーベルト/年の10万分の1未満としています(図2)。

図2:被ばく線量の比較(https://www.fepc.or.jp/enelog/focus/vol_47.html より)

 この説明が正しいとした場合、それでも危険という人は、普通に食べ物を食べれなくなってしまいます。

 FoeJapan は、排出される放射性物質の総量が示されていないことを問題視していましたが、総量よりも年間どの程度の被ばく線量になるのか、のほうが重要なのではないでしょうか。なぜなら、単位時間あたりの被ばく線量が多くなると、健康への影響(がんのリスクが上昇)が出てくるからです。

 ALPS処理水の海洋放出については、国際原子力機関 (IAEA) が国際基準に合致していると結論づけています。
(https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/shirou_alps/reports/02/)

 しかし、日本が IAEA に分担金を支払っていることや、日本人職員を派遣していることなどから、IAEA の中立性を疑問視する声があります。
 この点について、東京新聞の望月衣塑子記者の質問に対し、松野博一官房長官が、今年の日本の IAEA の分担率は 7.8% で、海洋放出に反発する中国は 14.5% と日本より多いことを示しています。
(https://www.sankei.com/article/20230831-6SA4ZPQYPJMBRNLKBSK4DBQM4I/)
 したがって、IAEA の中立性を疑問視するには、根拠が乏しいといえます。

 一方、東京電力が信用できない、政府が信用できない、といった意見があります。これについては、私も納得するところがあります。
 東電に関しては、そもそも福島第一原子力発電所の事故は、専門家による津波想定を長年にわたって受け入れてこなかった東電による人災と考えられるからです。(詳しくは、島崎邦彦著『3.11 大津波の対策を邪魔した男たち』)
 そして、政府については、第二次安倍政権以降の情報の隠ぺい、改ざん、破棄、国会での虚偽答弁など、信用できない要素は山ほどあります。

 東電や政府が信用できないことは置いておいて、科学的な論点をまとめてみましょう。

 トリチウムの海洋放出を危険とするのであれば、それは、ALPS処理水に限ったものではなく、世界の原発すべてを対象とした話になります。
 となると、今回の海洋放出に関する論争は、ALPS処理水には普通の原発処理水とは異なり、トリチウム以外の放射性物質が含まれる点、に収束するのではないでしょうか。

 そして、その安全性については、「たとえ基準値以下であろうと、人体に害を及ぼす可能性が100%ないとは言い切れないから危険だ!」などと考える人がいるでしょう。

 一方で、「私たちは常に自然界から放射線を浴びている。もちろん、食べ物からも。今回の海洋放出による被ばく量は、そうした自然界からの被ばく量の10万分の1未満に過ぎない。その量で人体に害を及ぼすというなら、X線検査や飛行機に乗ることも当然できなくなってしまう。」などと考える人もいるでしょう。

 基準値以下だろうと危険、と考える人たちは、私たちは自然界から、食べ物からも放射線を浴びていることや、レントゲン検査すれば、飛行機に乗れば、より多くの放射線を浴びるといった事実についても、ぜひ考えを巡らせてほしいです。

2023年09月04日

温暖化の今後は富裕層次第?

 "裕福な米国人ほど温室効果ガス排出量が多い、研究結果" を本日のネット記事で見つけました。
(https://forbesjapan.com/articles/detail/65379#:~:text=上位10%の所得,で明らかになった。)
 家計の一部として行われた投資と、その投資によって発生した排出量との関係を明らかにした研究で、上位10%の所得を持つ米国人は、米国全体の温室効果ガス排出量の40%を担っていることが明らかになった、とのことです。

 富裕層が地球環境の悪化に大いに寄与しているといった指摘は、これまでにもあります。

 "富裕層1%のCO2排出量は全世界の最貧層30億人の2倍以上に相当" (2020.9.24)
(https://thinkesg.jp/co2-inequality/)
 "超富裕層1%のCO2排出量は1.5℃目標値の30倍 パリ協定達成は裕福な層しだいか" (2021.11.17)
(https://eleminist.com/article/1786)

 また、CO2との関連ではありませんが、富裕層がコロナ禍でさらに太ったといった記事もあります。
 "1%の富裕層がコロナ禍で手にした富、残る99%のほぼ2倍" (2023.1.16)
(https://www.cnn.co.jp/business/35198649.html)

 富めるものはさらに富み、貧しい人たちはその貧しさから脱せられない。こうした状況がコロナ禍で、より顕著になったということでしょう。

 もし、富裕層1%がCO2排出量を半分に減らせば、かなりの削減量になります。しかし、それに伴う経済活動の縮小が、世界全体の経済活動に悪影響を与えるかもしれません。(想像です。詳しくはわかりません。)
 一方、富裕層1%がCO2排出量の半分相当の富を最貧層30億人に配分すれば、SDGsの目標1: 貧困をなくそう、が解決するかもしれません。

 地球沸騰化の時代に突入した人類の命運は、SDGs達成の成否は、世界人口のたった1%の富裕層が握っているといえるのかもしれません。

2023年08月21日

8月の気象災害

 台風7号が15日(火)に紀伊半島に上陸すると予想されています。遠く離れた岩手県では、すでに大雨が降っています。また、17日(木)には、北海道に近づく予想になっています。各地で災害への備えが求められます。

 "YAHOO! JAPAN 天気・災害"には、"災害カレンダー" というサイトがあります。
(https://typhoon.yahoo.co.jp/weather/calendar/)

 8月の気象災害を見てみると、以下が掲載されています。
 8月2日 平成26年8月豪雨(2014年)
 8月5日 昭和61年台風10号(1986年)
 8月6日 平成5年8月豪雨・鹿児島8.6水害(1993年)
 8月7日 2017年台風5号(2017年)
 8月8日 平成15年台風10号(2003年)
 8月9日 平成21年台風9号・兵庫県佐用町で豪雨災害(2009年)、 シーボルト台風(文政11年:1828年)
 8月11日 明治43年の大水害(1910年)
 8月13日 京都市8.13水害(1959年)
 8月14日 京都府南部豪雨(2012年)、 平成8年台風12号(1996年)、 昭和34年台風7号(1959年)
 8月15日 8月の停滞前線による大雨(2021年)、 南山城豪雨(1953年)、 ジュディス台風(1949年)
 8月17日 北海道常呂川・湧別川水害(2016年)
 8月20日 広島市で大規模土砂災害(2014年)、平成16年台風15号(2004年)
 8月21日 昭和45年台風10号(土佐湾台風)(1970年)
 8月23日 明治40年大水害(富士川豪雨)(1907年)
 8月25日 安政の台風(安政3年)
 8月26日 平成20年8月末豪雨(2008年)、羽越豪雨(1967年)
 8月27日 北関東・南東北豪雨(1998年)
 8月28日 九州北部大雨・大雨特別警報(2019年)、愛媛・別子大水害(1899年)
 8月30日 平成28年台風10号(2016年)、 平成16年台風16号(2004年)
 8月31日 キティ台風(1949年)

 8月は、3日中2日は過去に気象災害があった日、ということになります。ただし、数日間に及ぶ災害であっても、代表する1日のみが書かれているので、実際は3日中2日より多くなると考えられます。
 8月以外の月についてもすべて調べてみないと、はっきりしたことは言えませんが、8月は気象災害が多い月といえそうです。

 このサイトに掲載されている災害は、その選定基準がはっきり明記されていません。
 そこで、気象庁ホームページにある "災害をもたらした気象事例" をみてみます。
(https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/index.html)

 昭和20~63年については、「気象庁が命名した台風の事例および死者・行方不明者数が100名以上の風水害・雪害」と明確な選定基準が示されていますが、平成元年以降は「被害を総合的にみて規模の大きなもの、社会的な関心・影響が高いもの」とあいまいな基準になっています。
 選定基準が明確な昭和20~63年の期間をみると、1968年(昭和43年)8月17日の "寒冷前線による大雨" が、上記の災害カレンダーには記載されていなかった気象災害になります。(8月14日台風第7号、8月15日南山城豪雨、ジュディス台風、8月26日羽越豪雨は重複)
 
 今回の台風では台風が直撃しない地域であっても、断水した場合や停電した場合などを想定した準備もしておきましょう。

2023年08月14日

国のデジタル化、先ず隗より始めよ

 岸田首相は「国のデジタル化が必要」と、マイナンバーカードと国民健康保険証の一体化に国民の理解を求めようとしています。
 
 デジタル技術を活用し、企業全体を変革して新たな価値を創出するといったDX(デジタルトランスフォーメーション)は、日本企業が世界的な競争に生き残る上で必須と、国は考えています。
 経産省によれば、2025年までにDXが実現できなかった場合、毎年12兆円もの経済損失が生ずる可能性がある、としています。

 数年前のコロナ対策でも、デジタル化が進んでいる台湾などの諸外国と、そうでない日本との差が浮き彫りになりました。
 例えば、給付金の支給はマイナンバーと銀行口座が紐付けされていればスムーズに行われたでしょう。

 しかし、マイナンバーの普及には、少なからず国民監視や情報漏洩といった不安があります。こうした不安の払拭とともに、デジタル化の利便性を訴えるためにも、まずは国会からデジタル化を進めるべきです。

 手始めに、国会議員に月額100万円支給される「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)から、デジタル化をしてみましょう。
 これは、以前からネットでは言われていたことですが、大手マスコミがこぞって取り上げ、世論喚起するまでには至っていません。

 支給は専用のカードにして、国民は誰が何にいくら使用したのかを、ネット環境さえあれば確認できるようにします。そんなに難しくはないでしょう。いや、やろうと思えばすぐにでも実現可能なはずです。
 まずは、国会議員が国民に「デジタル化はいいでしょ」って思ってもらえるようにすることが、国民の不安払拭につながるのではないでしょうか。

 野党も、与党の批判をするだけでなく、デジタル化は「先ず隗より始めよ」で、手始めに旧文通費のデジタル化を提案してみたらいかがでしょうか。
 また、大手マスコミも、国会議員がデジタル化による利点を自ら示すよう、まずは旧文通費のデジタル化の実践を促したらどうでしょうか。

 しかしながら、国会議員としての特権を手放したくないのは野党議員も同じでしょうから、国会のデジタル化は進みそうにありません。
 あとは、大手マスコミによる世論喚起を期待するしかなさそうです。

2023年08月05日

人為的なCO2排出抑制とSDGsとの矛盾

 "7月は史上最も暑い月に 国連総長は「沸騰化の時代」と警告"
(https://www.bbc.com/japanese/66333742)
 "「地球は未知の領域に」 数々の気候記録が更新、科学者らが警戒"
(https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66253356)
など、世界的な今年の夏の異常な暑さがクローズアップされています。

 一方、"ノーベル賞受賞物理学者「気候変動は存在せず」が物議 CO2には良い面も? 専門家「自然変動でも大雨は増減」"
(https://times.abema.tv/articles/-/10088703)のように、気候変動、異常気象を否定するような声もあります。

 確かに、現在の気候は人類にとっては未知かもしれませんが、地球にとっては未知ではありません。地球は誕生当初、熱いマグマで覆われていたと考えられています(マグマオーシャン)。また、スノーボールアースと呼ばれる全球凍結も経験しています。地球温暖化(または沸騰化)や異常気象は、あくまで人類にとっての話です。

 世界の多くの研究者は、この温暖化の主たる原因は人類の化石燃料使用による二酸化炭素(CO2)排出にある、と考えています。
 ただし、今夏の暑さについては、昨年(2022年)1月15日に噴火した南太平洋・トンガ諸島の海底火山の影響も考慮する必要があるかもしれません。
 なぜなら、通常の火山噴火では、火山灰等の影響で日光がさえぎられ寒冷化に寄与しますが、トンガの海底火山噴火では多くの水蒸気が噴出されたため、温暖化に寄与すると考えられているからです(水蒸気は温室効果があるため)。
 この噴火が温暖化にどれほどの影響を及ぼすかについては未知なので、今後の研究結果を待つしかありません。
 また、気候に及ぼす影響としては、他にエルニーニョのような現象や太陽活動なども考慮する必要があります。
 
 さて、SDGs(持続可能な開発目標)の第一番目は「貧困をなくそう」です。
 貧困をなくすには、経済を活発化して皆が稼げるようにしなければなりません。
 経済が活発になるということは、人や物、情報などが活発に動くことを意味します。
 そのためには、多くのエネルギーが必要となります。
 仮にそのエネルギーを再生可能エネルギーで賄うとした場合、太陽光発電や風力発電、蓄電等の設備が必要になります。場合によったら、森林伐採など自然環境を破壊して、立地場所を確保する必要があります。
 また、大量の天然資源が必要になります。天然資源の採掘や精錬、運搬等でもエネルギーが必要です。
 採掘で使う重機や運搬で使うダンプを電気駆動にするなら、電気自動車が必要です。
 電気自動車は製造時に、ガソリン車以上にCO2を排出します。
 (例えば、https://dfir-lab.info/posts/item28.html 参照)

 結局、全てをクリーンエネルギーとされる代物でまかなおうとしたところで、CO2は必ず排出されます。特に電気自動車は作れば作るほど、新車の段階ではガソリン車以上にCO2を排出しているのが事実です。

 なぜ多くの人は、この事実に目を背けるのでしょうか?
 それは、経済の発展が最重要と考えているからかもしれません。

 では、経済の発展なしに、どのようにして貧困をなくすことができるのでしょうか?

 本気で貧困をなくしたいなら(SDGsを実現したいなら)、資源やエネルギーの大量消費なしに経済を回す仕組みを考えるしかなさそうです。

2023年07月29日

福島第一原発から出た処理水の議論

 福島第一原発の事故による放射線で汚染された水を、ALPS(多核種除去設備)等を用いて安全に関する規制基準値を確実に下回った水(ALPS処理水:トリチウムを除く告示濃度比総和1未満)を海洋放出することについて、中国や韓国が日本を非難しています。

 トリチウム(三重水素)が海洋を汚染するとする批判については、中国や韓国は「ALPS処理水」の数倍ものトリチウム(液体)を処分していることが経産省のHPに掲載されています。(図1)


図1
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/shirou_alps/no2/

 中国や韓国の反対派には、この図を見せて「批判するならまずは自国を批判せよ」と言い返して欲しいです。

 一方、この図からは、確かに中国や韓国が「ALPS処理水」より多くのトリチウムを処分していることがわかりますが、処分方法がわかりません。
 海洋放出であるなら、一言そう書くべきでしょう。それが示されていないので、「何かを隠しているのか?」といった疑念を抱く人が出てきても不思議ではありません。日本政府のアピール下手を感じてしまいます。

 「ALPS処理水」海洋放出反対の理由には、「排出される処理水が、通常の稼働下で排出される冷却水とは質が異なる」といったものもあります。
 これは、2021年4月に日本政府が海洋放出を発表した際に、中国の専門家らが示した批判の根拠の1つになります。
(https://diamond.jp/articles/-/269625)

 同様に、「原子力市民委員会」は事故炉から処理水であることを問題にしています。
(http://www.ccnejapan.com/?p=13899)

 ただし、経産省や東京電力のホームページにある「ALPS処理水」の説明では、"トリチウム以外の放射性物質が、安全に関する規制基準値を確実に下回るまで、多核種除去設備等で浄化処理した水" とあります。
 であるならば、通常の原発から出された排水と質が異ならないのではないでしょうか?経産省や東電は、そのことを積極的にアピールすればよいと思います。

 また、批判する側も通常の原発から出される排水と、事故炉から出された「ALPS処理水」のどこが異なり、どのように危険なのかを具体的に示す必要があります。でなければ、科学的な議論はできません。

 反対派には科学的な根拠に基づいた批判を、日本政府には反対派の意見に対して、論理的に説明(反論)することを望みます。

2023年07月21日

人類は他の生命体の世話役か?

 WHAT IS LIFE? (ホワット・イズ・ライフ?) 生命とは何か,ポール・ナース (著), 竹内 薫 (翻訳) といった書籍について、訳者である竹内薫氏が、NHKの「100分de名著 for ティーンズ」で紹介しています。

 そのなかに「人間は生命の世話をしなければならない(We need to care for it.)。」といった文言がありました。ここが引っかかりました。

 著者のナースは、人間以外の地球上の生命体は自身の生存と子孫の繁栄だけを目的としているが、人類は違うと言っています。人類は地球全体に対して責任を負っており、(他の生命の)世話をしなければならない、と主張しています。
 そして、そのために人類は、生命を慈しみ、生命を理解する必要がある、というのです。

 「生命を慈しみ理解する必要がある」は納得できましたが、「人類は地球全体に対して責任を負っており、(他の生命の)世話をしなければならない」については首を傾げてしまいました。

 「人類が他の生命体に比べ、並外れた脳を持っている」、だから、「人類は地球全体に対して責任を負っている」とする点に論理の飛躍があると思ったからです。

 著者のポール・ナースはイギリス人です。イギリスの国教はキリスト教です。人類が地球の他の生命体の管理者とする発想は、おそらくキリスト教の影響ではないかと推測します。

 “神はまた言われた、「われわれのかたちに、われわれにかたどって人を造り、これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう」。 神は自分のかたちに人を創造された。”(創世記1章26節)
(https://www.bible.com/ja/bible/81/GEN.1.26-27.JA1955)

 旧約聖書の創世記1章26節に、人間は他の生命体の管理者・支配者であることが記されています。
 これが、ナース氏の発想の背景に、キリスト教があると推測する理由です。

 そして、この発想こそが人類を誤った方向に向かわせている元凶ではないか、と思っています。

 仮に、人類が他の生命体の管理者・支配者であるなら、人類は住民たる他の生命体のことを知っていなければなりません。どんな種の生命体がどこにどれだけ生息しているのか、彼らの生態はどのようなものなのか、それがわかってなければ、管理者・支配者として適切な行動をとることはできません。

 ところが、地球上の生命体のうち、陸上種の86%、海洋種の91%が未知種だというのです。
(https://tenbou.nies.go.jp/news/fnews/detail.php?i=6363)
 これでは、管理者・支配者の資格などないでしょう。

 誰が、どこに、どれだけ住んでいるのかも知らずに、管理・支配などできるはずもありません。だから、まずは知ることが優先的に重要になります。それゆえ「生命を慈しみ、生命を理解する必要がある」ことには、合点がいきました。

 人類もまた他と同様に地球上に生まれた生命体です。
 人類は他の生命体の管理者・支配者ではなく、他の生命体と共に生きる共同生活者である、と考えるべきではないでしょうか。

2023年07月14日

南極の気温は?

 日本の離島よりも、人間活動による影響がより少ないと思われる昭和基地の年平均気温の推移を図1に示します。

図1:昭和基地の年平均気温の推移
(データは気象庁ホームページから引用)

 直線近似による長期トレンドは、+0.4℃/100年でした。温暖化しているといえるかいえないかぐらいのわずかな変化率です。

 一方、南極の極点付近では、1989年から2018年の30年間の気温上昇トレンドが +1.8℃ で、これは世界の他の地域の3倍に達するといった研究結果もあります(図2)。特に2000年以降の気温上昇が顕著です。
(https://theconversation.com/new-research-shows-the-south-pole-is-warming-faster-than-the-rest-of-the-world-141536)

図2:南極の極点付近の年平均気温推移
(https://theconversation.com/new-research-shows-the-south-pole-is-warming-faster-than-the-rest-of-the-world-141536 より引用)

 一方、この記事によると、極点で上昇傾向が顕著になった2000年以降に、南極大陸の西部地域では気温上昇の傾向が停止し、南極半島では逆に気温低下に転じたとあります。
 図3は、それぞれの位置関係を示した図になります。

図3:南極大陸の地図
(https://theconversation.com/new-research-shows-the-south-pole-is-warming-faster-than-the-rest-of-the-world-141536 "Map of the Antarctic continent. National Science Foundation" に加筆)

 極点および南極半島、西部地域で見られた2000年以降の気温トレンドの変化は、大陸の東部に位置する昭和基地では見られませんでした。

 これらの結果から、南極大陸の気温変動は地域差がかなりあると言えそうです。

2023年07月07日

離島の気温推移

 気象庁によれば、八丈島の年平均気温は 0.8℃/100年の長期トレンドでした。
(https://www.jma-net.go.jp/tokyo/shosai/umi/kikouhenka/data/47678.html#MEANTEMP)

 では、他の離島はどうなのか?
 八丈島のようにデータの連続性がないと、補正で色々と問題が生じる可能性があるので、連続してデータが得られている南鳥島、父島、与那国島、そして沖永良部島、南の島4島の長期トレンド(直線近似)を調べてみました。(図1)

図1:南鳥島、父島、与那国島、沖永良部島の年平均気温の推移
(年平均気温のデータは気象庁ホームページから引用)

 八丈島(1907年〜)に比べると、観測年数が少ないことに留意する必要がありますが、いずれも八丈島(0.8℃/100年)よりも高いトレンドを示していました。

 では南の島以外ではどうなのか?
 できるだけ長期間のデータがある島として、隠岐諸島・西郷のデータを図2に示します。

図2:隠岐諸島・西郷の年平均気温の推移
(年平均気温のデータは気象庁ホームページから引用)

 隠岐諸島・西郷は83年間のデータから、1.7℃/100年のトレンドになりました。やはり、八丈島よりも高いです。

 一方、1891〜2022年のデータから見た世界の年平均気温の長期トレンドは 0.74℃/100年となっています。ただし、こちらは実測値ではなく、年平均気温偏差の経年変化であるといった違いがあります。
(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html)

 離島は都市化によるヒートアイランド現象の影響が少ないと考えられるので、人間活動による影響が少ない、より自然に近いデータと考えられます。そうしたデータであっても、日本の離島は、世界全体の気温上昇よりも高い上昇率を示していました。

 あえて日本に限って考えましょう。その場合、観測データは温暖化の傾向を示していると言えそうです。 

2023年06月30日

八丈島の気温データの補正について

 「補正?改ざん?八丈島の気温データ」(2023/6/21付の本ブログ)では、IPCC報告書の素材にもなったGISSサイト上の八丈島の気温変動グラフの怪しさについて取り上げました。気象庁が公開した補正グラフに手を加えて、温暖化がより顕著に見えるようになっていました(渡辺正氏の指摘通り)。

 アメダスの記録については、GISSよりも気象庁のほうが、当然ながら、よく知っているでしょう。その気象庁が示したデータに対して、手を加えていることは、補正というより改ざんといったほうがよいのではないでしょうか。

 さて、地球が温暖化の傾向を示しているのかについて考察する際、都市化によるヒートアイランド現象の影響が小さいであろう島の観測データは、実測値としてより信頼できるものと考えられます。

 気象庁ホームページにある八丈島の気温データは、1907年からになります。
 観測場所の移動など何らかの変更があった2003年より前(1907年〜2002年)の期間で長期トレンドを推定すると、およそ0.7℃/100年になります。
 一方、「気候変化レポート2018」にある補正後の1907年から2018年までの長期トレンドは0.8℃/100年でした。
(https://www.jma-net.go.jp/tokyo/shosai/umi/kikouhenka/data/47678.html#MEANTEMP)

 2003年から2022年までのトレンドは、2.8℃/100年になります。ただし、0.7℃/100年が95年間と100年に近い期間だったのに対し、2.8℃/100年は19年間のデータなので信頼度は異なります。

 気象庁が補正をした際、なぜ2002年以前のデータを実測値より低くしたのかについての理由は不明です。
 しかしながら、1907年〜2002年が0.7℃/100年に対し、補正後の1907年〜2018年が0.8℃/100年であることは、0.1℃/100年しか違いがないので、妥当ではないかと考えます。

 111年間の観測データが示す八丈島の年平均気温の推移は 0.7〜0.8℃/100年で、ヒートアイランド現象による気温上昇の影響が小さい、信頼できる値と考えます。
 一方、IPCC報告書の素材にもなったGISSによる八丈島のトレンド、1.2〜1.5℃/100年(渡辺正著, 「気候変動・脱炭素」14のウソ, 2022, 丸善出版, 41ページより)は、信頼できない値と考えます。

2023年06月23日

補正?改ざん?八丈島の気温データ

 「気候変動・脱炭素」14のウソ(渡辺正著, 2022, 丸善出版)といった書籍のなかに、温度補正の怪しさに関する記述がありました。その一例として東京都八丈島の年ごと平均気温データが挙げられています。
 書籍にはグラフが示されていなかったので、元データを確認してみました。

 図1は、「気候変化レポート2018」に示されている八丈島の年平均気温の推移です。0.8℃/100年(100年で0.8℃気温が上昇する)のトレンドがあると記されています。

図1 八丈島の平均気温「気候変化レポート2018」より
(https://www.jma-net.go.jp/tokyo/shosai/umi/kikouhenka/data/47678.html#MEANTEMP)

 図2は、気象庁ホームページの過去の気象データに掲載されている八丈島の実測値をグラフにしたものです。

図2 八丈島の平均気温(気象庁HP過去の気象データより)
(https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/)

 渡辺氏が指摘しているように、実測値(図2)のほうがトレンドは緩やかです。直線近似からは、0.4℃/100年という値になりました。

 図1と図2の違いはどこからくるのかといいますと、2002年以前のデータを補正したことによるものと考えられます。
 気象庁HPには、2002年から2003年にかけて「観測場所の移転、観測装置の変更または観測の時間間隔の変更」があったと記されています。(図2の赤線が2003年を示す。)
 ただし、なぜ、2002年以前のデータを実測値より低く補正したのか?その理由まではわかりませんでした。

 次に、IPCC報告書の素材にもなったとされるGISSサイト上のグラフです(図3)。

図3 八丈島の平均気温(GISSのサイトより)
(https://data.giss.nasa.gov/cgi-bin/gistemp/stdata_show_v4.cgi?id=JA000047678&dt=1&ds=14)

 渡辺氏が指摘しているように、さらにデータが補正されています。
 図1と図3のグラフ左端を比較するとわかりやすいです。図3(GISS)は始まりが約0.5℃低くなっています。
 それだけではありません。2003年以降のデータにも手が加えられています。2004年の実測値は約18.6℃、2022年は18.4℃です。しかし、図3(GISS)からは、2004年は約17.8℃、2022年は約18.7℃と読み取れます。実測値が補正?改ざん?されています。
 これらにより、気温の上昇トレンドがより目立つようになっています。

 GISSのデータが気象庁の補正データによるグラフとも異なるデータになっている事実は、地球温暖化を作り上げたい人々の手によるものなのかもしれません。(補正というよりは改ざん?)
 果たして事実はどうなんでしょう?

2023年06月21日

増える集中豪雨、45年前の2.2倍

 線状降水帯がもたらしたとされる集中豪雨の発生頻度が、この45年間で2.2倍に増えている、といった気象庁気象研究所の研究結果がニュースになっていました。
(https://mainichi.jp/articles/20230602/k00/00m/040/469000c)

 最近見聞きするようになった線状降水帯とは、次々と発生する発達した雨雲が列をなし、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる強い降水をともなう雨域のことをいいます。
(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/kishojoho_senjoukousuitai.html)

 温暖化の影響として、近年台風が凶暴化しているなどといわれることがありますが、それがウソであることは、本ブログでも取り上げています(https://dfir-lab.info/posts/item36.html)。

 しかし、集中豪雨の発生頻度が近年増加しているのは事実のようです。

 加藤輝之, 2022, アメダス3時間積算降水量でみた集中豪雨事例発生頻度の過去45年間の経年変化(https://metsoc.jp/tenki/pdf/2022/2022_05_0003.pdf)
がこのニュースの元となった研究成果です。

 この研究では、3時間積算降水量が100, 130, 150, 200mmをそれぞれ閾値とした場合、いずれにおいても、年平均発生数が増加傾向にあることを示しています。
 タイトルの「45年前の2.2倍」は、3時間積算降水量130mmの場合の結果です(1976年と2020年の比較)。

図:1976年から2020年のアメダス降水量データから抽出された集中豪雨(ピンク/赤色)など
  加藤輝之 (2022) より引用

 また、年平均の他に月別(6~10月)でも計算しています。梅雨期(6, 7月)の集中豪雨の発生頻度は、約3.8倍になっています。一方、8, 9月は、約1.5〜1.7倍程度です。

 台風は凶暴化していませんでしたが、雨の降り方については、近年集中豪雨が増えていることがデータにより裏付けられたといえます。

 マスコミが広めようとするイメージに流されず、データで実情を判断することが大切です。

2023年06月09日

マスメディアの凋落

 日本のマスメディアに対する信頼は、もはや失墜してしまったのではないでしょうか。

 国際NGO「国境なき記者団」は、毎年「報道の自由度ランキング」を発表しています。2023年5月発表で、調査対象180カ国・地域のうち、日本は68位でした。昨年(71位)より順位を上げたものの、主要7カ国(G7)の中では依然、最下位でした。
 また、日本の状況については「日本政府と企業は日常的に主流メディアの運営に圧力をかけており、その結果、汚職、セクハラ、健康問題(新型コロナ、放射能)、公害といった、敏感とみなされかねないテーマで激しい自己検閲が行われている」と説明しています。
(https://www.j-cast.com/2023/05/14461212.html)

 自己検閲、まさにジャニーズ問題はマスコミの自己検閲により、数十年にわたって、国民に伝えるべき事実を伝えずに、今日まできました。

 遅くとも、セクハラ行為があったことが確定した2004年に、この問題をマスコミ各社が世間に投げかけていれば、以降の被害は防げたかもしれません。
 この問題は、報道しなかったマスコミだけでなく、ジャニーズ関係者、スポンサーなどが皆、同罪(共犯者)と考えることができます。
 被害者は、場合によっては4桁に登ってしまうのではないか、といった推測もあります。
(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/323082/2)
 一方、問題提起してこなかった共犯者側は、その何百倍もの人数になるでしょう。そして、その数の力で、この問題をうやむやにしてしまおうと画策しているように見えます。

 今日本で巨悪に切り込めるメディアが週刊誌だけ、とは何とも情けない話です。
 本来、マスコミは民主主義を守る役割があったはずですが、今やどの大手メディアも堕落してしまいました。それでも、彼らは電波や新聞といった巨大な力を有しています。

 そんなマスコミであっても、インターネットの台頭に対しては恐れをなしていることでしょう。

 できることなら、伝えるべきことを国民に伝えないメディアをこの世から葬り去りたいです。
 私たち一市民ができることは、小さな声であっても、まずは声を上げることです。それだけではありません。ジャニタレ出演のテレビ番組は見ない、曲も関連グッズも買わない、ジャニタレ起用のスポンサー商品を買わないなど、実はいろいろできることがあります。

 タレントに罪はない、などという人もいますが、後輩が被害に会うのを見て見ないフリをしていた可能性は否定できません。(そうした先輩タレントも被害者かもしれません。)
 彼らが声を上げられなくても、私たちひとりひとりの行動により、現状を変えることは可能と考えたいです。

 といいながら、原発については、福島第一原発事故があったにもかかわらず、原子力ムラという巨大な勢力に押し戻されている現状をみると、根底から変えることの難しさを感じます。

2023年06月02日

AIが情報の真偽を判断

 グーグルの日本法人によりますと、Youtube で新型コロナに関する「フェイクニュース」を、約1年半で100万本以上削除したとのことです。真偽の判断は、人工知能(AI)の機械学習と人の手によるとのことです。
(https://nordot.app/1033668236988629541)

 このニュースに対して、キャスターの辛坊治郎氏は「危険だ。民間企業が言論の自由を奪える」と訴えました。
(https://news.1242.com/article/439112)

 フェイクニュースは日常茶飯事です。
 先日(現地時間22日)もアメリカで、ペンタゴン(米国防総省)近くで爆発、とのフェイク画像が拡散され、米ニューヨーク株式市場では、主要株で構成するダウ工業株30種平均が一時80ドル近く急落するなど混乱が広がった、とのことです。
(https://mainichi.jp/articles/20230523/k00/00m/030/018000c?inb=ys)

 この例のように、合成写真などの偽画像を見抜いて削除することについては、多くの人が賛成するでしょう。
 しかし、新型コロナに関する Youtube の削除については、私も問題ありと考えます。

 正しいと言われることは、時代とともに変わることがあります。極端な例を言えば、昔は天動説が常識でした。しかし、今では地動説が常識です。
 地震についても、東日本大震災以前、マグニチュード9.0の地震があの場所に起こるとは、誰も考えていませんでした。人類は地球のことを、実はそれほど知っていない、と思っています。

 新型コロナについても、わからないことが多いです。
 厚生労働省によりますと、第8波における高齢者の死亡者数増加について、オミクロン株による死亡原因の変化(併発疾患や合併症の増悪)、ワクチンや感染によって獲得した免疫の低下、などを理由として挙げています。
(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001062650.pdf)

 しかし、ワクチン接種は高齢者優先で進められました。オミクロン株対応のワクチンについても同様です。ということは、ワクチンの効果はさほどないということなのか?など、素朴な疑問が湧いてきます。

 新型コロナに関することは、まだまだわからないことが多いです。それなのに、今の常識に反することをフェイク(虚偽情報)と結論づけてしまうのは、言論の自由のみならず、科学の進歩といった点からも問題があるのではないか、と考えます。

2023年05月26日

地方議会はオワコンか?

 4人に1人が無投票(選挙なし)で当選。4月9日投開票の道府県議選では、全体の4割弱に上る348選挙区で、定数を超える候補者がなく、4人に1人にあたる565人が無投票で当選しました。
(https://smart-flash.jp/sociopolitics/229513/)

 また、4月18日告示の町村議員の選挙では、およそ3割にあたる1250人が無投票で当選しました。
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230419/k10014042601000.html)

 下図は統一地方選挙の投票率の推移です。今回の市議会議員選挙では半分以上の有権者が棄権したことになります。

https://www.asahi.com/articles/ASR4S6GF7R4SOXIE02C.html より

 選挙があっても、半数以上の有権者が投票していないということは、当選した全ての議員を否定する(認めない)声が過半数に達している、と考えることもできます。

 もはや、今の地方議会、選挙制度はオワコンと言えます。特に道府県議選で4人に1人、町村議員選では約3割の候補者に対して、選挙といった権利を有権者が行使できない状態が、それを物語っています。

 上の図からも明らかなように、投票率の低下は長年の傾向です。
 もし、本気で地方政治を立て直す気があったなら、遅くとも4年前から制度改革に着手できたはずです。しかし、地方議員も国会議員同様に、自己保身が最優先の人が多いようです。

 私も地方議員の経験があるので、その点は実感しています。
 議員定数削減は、自分が当選しさえすれば今の利権を保持できるので、比較的通りやすいです。
 一方、議員報酬削減は非常に困難です。改革派とされているような議員ですら反対します。特に、議員を職業としているサラリーマン議員にとって、報酬削減は何としても避けたいのでしょう。

 かく言う私もサラリーマン議員でしたが、議員報酬削減には賛成でした。生活に余裕があるわけではありません。しかし、人口減や地方経済の衰退などを考慮すると、議員として結果を出せなかった、となります。となれば、地方政治を担っている議員が責任を取るのは当然、といった考えでした。

 しかし、現状の地方議会は、このような小手先の改革でどうにかなるといったレベルでありません。投票率50%以下の事実がそれを証明しています。

 では、大胆な改革、どのようなものが考えられるでしょうか。
 例えば、財政難が深刻な自治体は、福島県矢祭町のように、議員報酬を日当制にするのも一案です。

 議員のなり手がいないなら、サラリーマンや主婦(主夫)などでも議会に出られるよう、議会開催日時を変えることや、Web参加を認めることなどが考えられます。
 ただし、その際には多くの人が選挙に立候補しやすい環境になるよう、選挙制度の改正も同時に行うべきです。

 また、議員が地方運営の役員として、目標数値に届かなかった場合には責任を取る、などとすると、取り組む本気度が違ってくるでしょう。ただ、誰がどのような目標を定めるのか?責任の取り方はどのようなものにするか?など、実現するには問題が多いです。

 次の選挙までは、4年あります。小手先の改革でどうにかなるレベルは、とうに過ぎています。
 地方議員のありようを議員自らが抜本的に変えなければ、議員は不要、との烙印を押されてしまうでしょう。いや、半数以上が投票しない現状が、既に烙印を押された状況なのかもしれません。

2023年04月28日

AIがもたらす未来とは?

 OpenAI による ChatGPT の登場により、AI技術は新たな局面を迎えています。
 私もこの ChatGPT のユーザーです。例えば何かを検索する際、Google などの検索サイトに比べ、直接求めているものにたどり着く可能性が高いです。しかし、わざわざログインする必要があるので、Google と使い分けています。

 先月、イーロン・マスク氏(ツイッター社やテスラ自動車の経営者)は、AIシステムの開発を半年間停止するよう提案する公開書簡を発表しました。
"AI 化が進めば「人類に深刻なリスク」、アメリカで開発停止求め署名運動…マスク氏ら賛同" 読売新聞オンライン
(https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230330-OYT1T50103/)

 この動きに対して、ビル・ゲイツ氏(米マイクロソフト創業者)は、「ある特定の集団に停止を求めることで課題が解決されるとは思わない」と発言しました。
"マスク氏らの「AI開発停止要請」、問題解決にならずとゲイツ氏" ロイター
(https://jp.reuters.com/video/watch/idOWjpvCDGARJ7JRFC4JA1KCPJKDUOWVL)

 また、〝ホリエモン〟こと堀江貴文氏は、「AIに乗り遅れた人たちが焦りを感じて、〝ちょっと待ってくれ〟と言っているだけ」と指摘しています。
(https://friday.kodansha.co.jp/article/304241)

 そして、4月19日にフォーブスは、「イーロン・マスクが、OpenAI の ChatGPT に対抗するための独自の人工知能チャットボット "TruthGPT" を開発中であると発言した、と伝えました。
"マスク、真理を追求する独自AI「TruthGPT」開発中"
(https://forbesjapan.com/articles/detail/62545)

 3月末の堀江貴文氏による指摘が的を射ていたようです。

 AIがゆくゆくは意識を持ち、映画「ターミネーター」の世界が現実になってしまうことを危惧している人もいるかもしれません。そして、その先にはマシンが人間をエネルギー源にする映画「マトリックス」の世界が待っているのか、それとも人類が滅亡してしまうのか、いずれにしても、明るい未来ではありません。

 一方、AIは「次の産業革命」を起こすだろう、といった予測もされています。
"AIは「次の産業革命」を起こすだろうが、核戦争の引き金になるかもしれない…専門家480人の見解を調査"
(https://www.businessinsider.jp/post-266220)

 さて、この問題を SDGs の視点からみるとどうなるでしょうか。
 持続可能な社会に対して、AIが希望の道のりを示してくれるかもしれませんし、脅威になるかもしれません。
 別の視点からは、「AIを動かすために、いったいどれだけの天然資源とエネルギーが必要になるのか?」といった疑問が生じてきます。
 この問題については、また別の機会に取り上げたいと思います。

2023年04月21日

震災誌、後世に何をどう伝える?

 "釜石市の「震災誌」続く生みの苦しみ 原稿案や編集方針で認識の違い" 毎日新聞 2023/4/12 07:30(最終更新 4/12 10:10)といった記事を目にしました。 (https://mainichi.jp/articles/20230411/k00/00m/040/296000c)

 東日本大震災の発生から復興までの10年間を総括する「震災誌(仮称)」の作成は、岩手県内で初の試みだそうです。ただし、編集方針を巡って関係者間の認識の違いが表面化して完成がずれ込んでいるとのことでした。

 こうした震災の記録誌に関しては、岩手県遠野市の『3.11 東日本大震災 遠野市後方支援活動検証記録誌』の編さんに深く関わりました。
 通常、震災で何が起きたかを記録しておく記録誌は、いつ、何が起きたか、その際にどのような対応をとったか、などが時系列でまとめられます。遠野市の記録誌を編さんする際はそれに加えて、事前計画と実際とった行動との比較、情報や物資等がどのように流れていったか(加えて、それに要した時間)、マンパワー(人材)確保の方法などについても整理しました。

 事前計画との比較は、計画が有効だったかどうかの検証に役立ちます。
 情報や物資等の流れは、今後の災害対応を考える際に、迅速化や臨機応変の対応の参考になれば、と考えました。
 マンパワー確保は、実際に災害対応にあたる人材をスムーズに確保する参考になれば、と考えました。
 いずれも、後世に役立つ情報にしたい、といった思いです。そうした思いは、被災されたどの自治体でも同じでしょう。

 記事によりますと、今回の釜石市の震災誌について、市長は「市が何をやったのかを押さえたうえで、反省や教訓を見いださねばならない」と、市の対応を中心に考えているようです。一方、委員からは今後の災害対応に役立つ内容とするよう求める声が相次いだ、とのことです。

 震災から既に12年が経過していることを考えると、震災発生からの10年間を統括するのであれば、震災の被害から復興がどのように進んだのか、復旧・復興の期間に焦点をあてたほうがよいのではないか、と個人的には思っています。(そのように考えているのかもしれません。)
 復旧・復興の段階で様々な問題点が出てきたことでしょう。それをどのように解決していったのか、は後世に残すべき記録だと思います。また、復興では、次の災害に備えるまちづくりを、念頭に置いていたのではないかと推測します。こうした記録は、日本全国で、災害に強いまちづくりの参考になるかもしれません。

 災害の記録誌というと、大抵は発災から復旧の始まりあたりまでのことが中心になります。
 今回の釜石市の震災誌は、それとは違った視点(焦点をあてる時間)で考えた方が、後世に役立つ内容になるのではないかと思いました。(外野のひとり言です。)

2023年04月14日

温暖化問題解決のカギは経済か?

 「30年のCO2排出、半減が必要 1.5度抑制へIPCC」(2023年03月20日)によれば、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、今世紀末の気温上昇幅が1.5度を超える恐れが強まっており、この水準に抑えるには2030年に世界の二酸化炭素(CO2)排出を現状から半減させる必要があるとの報告書を公表した、とのことです。(https://www.47news.jp/9085605.html)
 またIPCCは、新たな石炭生産をやめるよう各国に(富裕国は2030年、貧困国は2040年までに)要請したとのことです。(https://forbesjapan.com/articles/detail/61795)

 とにかく石炭を目の敵にしていますが、石炭火力なしでは、IPCCが思い描く未来像も実現できないといった現実をなぜか、マスコミは報道しません。
 太陽光パネルや電気自動車(EV)のバッテリー製造で世界シェアが大きい中国は、石炭火力をさらに増やすと、昨年のCOP27で表明しています。太陽光パネルもEVも石炭火力がなければ、生産できていないのが現実です。
 また、各国の事情を考慮せず(なぜか中国に対してだけは考慮しているように思えますが)、画一的に「石炭=悪」を押し付けようとするなら、決してIPCCが求める削減は実現しないでしょう。世界のすべての国がノルウェーと同じであれば、水力発電で大半の電力を賄うことができます。しかし、現実は自然環境も人口も世界各国バラバラです。

 温暖化問題の本質は何か?と日々と考えています。
 科学技術による解決については、生産段階でガソリン車より多くのCO2を排出するEVに象徴されるように、少なくとも現段階では無理でしょう。
 また、今のエコ活動の多くは、見せかけ、自己満足にすぎません。環境に良いとされるリサイクルであっても、場合によっては環境負荷が大きくなることがあります。最も良いのは、使わないこと、つまり消費しないことです。しかし、それでは経済が回らなくなってしまいます。

 では、どのようにすれば解決できるのか?と考えていくと、やはり、経済の問題にたどりついてしまいます。
 この点については、斎藤幸平氏の書籍(人新世の「資本論」 (集英社新書)など)が注目されています。「脱成長」がキーワードです。

 資本主義が、温暖化のみならず世界の貧困など、現代社会が抱える多くの問題を生んできたことは、おそらく大多数の人が認めることなのではないでしょうか。それでも、資本主義がこれほどまでに世界に広がったのは、それなりの理由があったからだと思います。その点まで深く入り込まないと、資本主義擁護派も受け入れてくれるような解決策は見出せないと考えています。

 人間の欲望にはキリがありません。また、価値観も人それぞれ異なります。それを同じベクトルにしようとすると、おそらく別の問題が生じてしまうと思います。
 今の資本主義経済は、ある意味、人の欲望や価値観まで考慮した経済システムと言えます。したがって、人の欲望や価値観まで考慮した、資本主義とは異なる経済システムが解決策のように思えますが、今のところ具体的な提案ができる段階ではありません。

2023年03月24日

原発再稼働の是非

 明日で東日本大震災から丸十二年になります。
 福島第一原発の事故により、日本は脱原発を目指しました。しかし、事故の記憶は時間とともに風化し、岸田政権は原発再稼働に大きく舵を切りました。

 ウクライナ情勢による燃料費高騰で、各電力会社では値上げラッシュです。電気料金を人質に原発再稼働の容認を国民に迫っているようにも映ります。「原発が再稼働されないと、さらに電気料金は上がります」と言われれば、多くの人は「やむなし」と思うのではないでしょうか。

 原発はもともと最終処分の方法が未解決のまま、見切り発車しました。最終処分場の候補地に名乗りを挙げた自治体が現在2町村ありますが、処分地決定には至っていません。そもそも日本に適地を見つけること自体が困難でしょう。
 日本は、世界初の最終処分場であるオンカロがあるフィンランドとは、地質的な環境が全く異なります。フィランドは安定陸塊といって、地震や火山活動がほとんどないところにある国です。一方日本は、地震や火山活動といった地殻活動が活発な新期造山帯に位置しています。日本で地殻活動が平穏で安定した場所はほとんどありません。唯一、一部の学者が最終処分場の適地として、南鳥島を挙げているぐらいです。

 最終処分のことだけでなく、原発再稼働には(安全性のこと以外にも)多くの問題があります。
 原発を稼働させると、使用済み核燃料が生まれます。そして、この使用済み核燃料の保管場所には限りがあります。再稼働させれば、最終処分の前段階でも問題が生じてしまう恐れがあります。
 使用済み核燃料は原発施設内ある貯蔵プール(水)で冷却させるために、3〜5年ほど保管されます。再稼働させれば使用済み核燃料が出てきます。これを貯蔵するプールが満タンになってしまえば、原発を止めるしかありません。
 そこで、プール(湿式)に代わる方法として乾式貯蔵が開発され、各原発では乾式貯蔵を進めています。それでも、例えば東海第二原発は3年が6年に延びるだけのようです。
(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/kanshiki_tyozou.html)

 日本では、核燃料サイクルといって、使用済み核燃料からウラン、プルトニウムを取り出し、それを再利用しようといった政策がとられています。
 しかし、ここにも問題があります。ウラン、プルトニウムを取り出す再処理工場(青森県六ヶ所村)は昨年も完工を先延ばししました。先延ばしはこれで26度目になります。

 仮に再処理工場が稼働し、使用済み燃料からウラン、プルトニウムを取り出し、MOX燃料と呼ばれる新たな燃料が生成されたとしましょう。ところが、このMOX燃料を使える原発は限られているようなのです。
 ふくしまミエルカPROJECT(https://311mieruka.jp/info/report/fuelcycle_2022/?gclid=EAIaIQobChMIoOrs86zQ_QIVDqyWCh3sFwg-EAAYASAAEgIlHvD_BwE)によれば、それは、玄海原発3号機など5基だけで、プルトニウムの余剰を増やさず、MOX 燃料として使いきるには16~18基が必要とのことです。

 プルトニウムを所持することは、核兵器開発につながることから、日本ではそれを燃料として使い切ってしまう政策をとっています。ところが、使い切ることは現在の施設ではできないのが現実ということです。

 原発を再稼働させれば、使用済み核燃料が生じます。それを貯蔵する施設にも限界があります。使用済み核燃料からウラン、プルトニウムを取り出す再処理工場も未完です。また、仮に再処理工場が稼働し、MOX燃料が作られてもそれをすべて使い切ることができない、、、、なんともお粗末な政策です。

 電気料金を人質にとるような姑息な真似はしないで、最終処分のことだけでなく、日本の原発政策の様々な問題点を国民に知らせた上で、再稼働の是非を考えるべきではないでしょうか。

2023年03月10日

電力が作れない 反対派の正義

 現在日本では、どのように電力を作るか?その方法ごとに、異なる正義による反対運動が起きています。

 原子力発電に対する反対は、事故への不安といった正義があります。他に、捨て場がないのに増え続ける放射性廃棄物、破綻しているのに止められない核燃料サイクル、処理できないのに増え続けるプルトニウム、さらに、ウランの採掘と製錬過程における環境問題や人権問題などに対する正義などがあります。

 石炭火力発電については、神戸市で地球温暖化を加速させる石炭火力発電所の建設計画について、発電所の建設と稼働の差し止めを求め、訴訟となっています。
(https://kobeclimatecase.jp/)
 地球温暖化への懸念から二酸化炭素排出に反対する正義になります。

 近年では、クリーンなエネルギーとされる太陽光発電や風力発電でも各地で反対運動が起こっています。
 例えば、宮城県丸森町耕野(こうや)地区では、森林伐採を含むメガソーラー計画に対し、住民が反対運動を展開しています。理由は土砂崩れや水害といった災害リスクが増大する懸念や、水資源の確保のためです。
(https://kumamori.org/topics/kumamori-news/20220625.html)
 また、山形県鶴岡市では、自然への影響を懸念し、風力発電所計画に対して市が中止を申し入れました。
(https://www3.nhk.or.jp/lnews/yamagata/20230201/6020016608.html)
 環境破壊や災害リスク増大に反対する正義になります。

 反対派は自らの主張が正しいと思うからこそ、その発電方法に反対しているのでしょう。原子力、石炭火力、そして太陽光や風力発電いずれにも反対派の正義があります。

 では、全ての正義が正しいとして、その正義をすべて受け入れたならどうなるでしょう?
 結果を想像することは容易です。大規模な電力不足となります。

 考えられる解決策は、2023年1月9日付のブログ「電力消費を抑えた社会実現の可能性」を参考に考えると、1984年以前の生活に戻ることです(下図)。原子力も石炭火力も、太陽光も風力も使わない発電で賄う社会です。

図) 日本の発電電力量の推移
(https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020html/2-1-4.html に加筆)

 しかしながら、いずれの反対派の人たちも、インターネットがない世界、もちろんスマホやオンデマンド配信がない世界に戻ることには賛同しないでしょう。

 なかには、イノベーション(技術革新)によって克服できると主張する人がいるかもしれません。
 しかし、太陽光や風力発電といったイノベーションは、環境を破壊すると反対されています。
 また、電力消費が白色電球の5分の1とも6分の1ともいわれるLED電球ですが、使用量が増えればせっかくの省電力効果はなくなってしまいます。昔はほとんどなかったイルミネーションが、今では日本各地に広がっています。それだけでなく、個人宅でも行われています。

 より多くの電力を消費したい!といった人間の欲望のほうが、イノベーションの進歩より勝るようです。
 また、電力消費の抑制に対しては、経済活動への悪影響を懸念する声も上がるでしょう。

 一方、どの正義がより正しいのか?を競うことは、問題の解決にはならず、むしろ分断や対立を深めることになってしまうと考えます。
 解決策が見出せません。

2023年02月03日

電力消費を抑えた社会実現の可能性

 太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電は、二酸化炭素(CO2)削減の手段として世界各国で導入が進められています。
 一方、必要とされる電力は、電気自動車(EV)が広まれば、さらに増加します。

 今回は、電力需要を賄う発電ではなく、限られた電力量に生活スタイルを変えることで対応できるか?といった発想で、これからの社会を考えてみます。

 図1は、1952年度から2018年度までの日本における発電電力量の推移を示しています。電源(発電方法)別の発電量の総和が各年の発電電力量になります。

図1 発電電力量の推移
(https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020html/2-1-4.html より)

 CO2をより多く排出する石炭火力と、放射性廃棄物等の問題を抱える原子力を除いた電源(新エネ等・石油等・LNG・水力)による2018年度の発電電力量はおよそ6,500億kWhになります。この発電電力量で一年間の総電力を賄えた年は、1988年度より以前になります。
 30年前となる1988年度は昭和の最後になります。昭和から平成へ移った時ぐらいまでの消費電力量で生活できれば、石炭火力も原子力も必要ありません。

 図2は、部門別電力最終消費の推移で、運輸・家庭・業務他・産業の部門別に示されています。

図2 部門別電力最終消費の推移
(https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020html/2-1-4.html より)

 2018年度と1988年度を部門別で比較すると、運輸部門では2018年度175億kWh、1988年度190億kWhと、2018年度のほうが少ない消費電力量になっています。産業部門も2018年度3,506億kWh、1988年度3,593億kWhと、2018年度のほうが少ないです。
 一方、家庭部門は2018年度2,607億kWh、1988年度1,766億kWh、業務他部門は2018年度3,168億kWh、1988年度1,506億kWhと、家庭部門は約1.5倍、業務他部門は約2.1倍も2018年度の消費電力量が増えています。

 家庭部門と業務他部門で省電力ができれば、石炭火力と原子力が不要な社会になります。果たしてそのようなことが実現可能なのでしょうか?

 https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020html/2-1-4.html(資源エネルギー庁HP)の説明では、2倍以上になった業務他部門の電力消費の増加は、事務所ビルの増加や、経済の情報化・サービス化の進展を反映したオフィスビルにおけるOA機器の急速な普及などによるもの、となっています。
 また、家庭部門の増加は、生活水準の向上などにより、エアコンや電気カーペットなどの冷暖房用途や他の家電機器が急速に普及したため、とあります。

 https://www.yonden.co.jp/cnt_landl/2008/promenade.html(四国電力グループHP)によれば、2018年の冷蔵庫やテレビの電力消費量は、10年前の製品と比べて約半分になっているとのことです。
 家電製品の省電力化が進んでも、家庭部門の電力消費量が増えているのは、スマホやパソコン、ゲーム機器など新たな電化製品の使用、冷蔵庫やテレビの大型化、使用台数の増加などが、その理由として考えられます。

 こうしたライフスタイルを変えることは可能でしょうか?
 現在のネット社会で、スマホやパソコン、インターネットの使用を抑制することは、不可能に近いのではないかと考えられます。
 また、家電製品が省電力化されても、利用時間が増えたり、使用台数が増えれば、省電力化は無効になってしまいます。例えば、夏が暑くなってエアコンの利用時間が増えれば、省電力モデルのエアコンであっても、電力消費量の削減は難しくなるでしょう。

 数字上では、昭和最後の年まで電力の消費量を減らせば、SDGs的に好ましい社会にすることが可能です。
 しかし、スマホを捨ててポケベルの時代に逆戻りすることは無理でしょう。むしろ、コロナ禍でリモートワークが増え、さらにネット関連の電力消費は増加しているのではないでしょうか。
 それに加えて、電気自動車が普及したなら、、、。電力消費量を抑えた社会の実現は不可能かもしれません。

2023年01月09日

電気自動車への移行は欧州のエゴイズム

 ガソリン車やディーゼル車といった内燃機関車(ICE)から電気自動車(EV)へと、世界は急速に変化しようとしています。

 EVは走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから、カーボンニュートラルな社会を実現できる乗り物と、一般的には言われています。イギリスをはじめとする欧州諸国では、ハイブリッド車(HEV)も市場から締め出す方針です。
 しかし、EVは製造時にICEよりも多くのCO2を排出します。また、銅やレアメタルを大量に消費しています。

 下図は、資源エネルギー庁 (2021)「2050年カーボンニュートラル社会実現に向けた鉱物資源政策」からの引用で、自動車一台当たりの資源使用量(kg)を示しています。

図:自動車一台当たりの資源使用量(kg)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/kogyo/pdf/007_03_00.pdf より

 上から、EV(電気自動車)、PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)、HEV(ハイブリッド車)、ICE(ガソリン車等の内燃機関車)の各鉱物資源の使用量を比較しています。EV車一台に、銅83kg、ネオジム0.8kg、リチウム7.2kg、ニッケル27.5kg、コバルト11kgと、5つで計129.5kgもの鉱物資源が使われています。一方、ICE車は計23.2kgです。EVは一台につき、実にICEの5.6倍もの鉱物資源を消費しています。
 また、例えば銅1kgを得るためには、400kgもの土砂等を掘り返さなければなりません(「2022年11月14日 電気自動車と銅」ブログ参照)。天然資源の採鉱は、元々あった自然環境の破壊を意味します。SDGs【目標15】陸の豊かさも守ろう、に反した行為といえます。
 さらに、コバルトの採鉱には、人権侵害や児童労働の問題があります(「2022年9月12日 電気自動車とレアメタル」ブログ参照)。SDGs【目標1】貧困をなくそう、【目標4】質の高い教育をみんなに、【目標10】人や国の不平等をなくそう、などに反しています。

 SDGs は、すべての国連加盟国が目指す目標です。にもかかわらず、イギリスをはじめとする欧州諸国は、複数の目標に反するEVへの移行をなぜ押し進めているのでしょうか。
 ネット検索をすると、ハイブリッド車(HEV)を製造できない欧州諸国が、市場から日本車を締め出すため、などといった理由が見つかります。
 「日本のハイブリッド車を世界から一掃する…英国が「完全なEVシフト」をゴリ押しするしたたかな狙い 英国には守るべきナショナルブランドがない」(https://president.jp/articles/-/64103)によれば、イギリス(英国)は自動車の世界的な国際ブランドがなく、(自動車産業がある日本などとは違って)EVシフトの障壁がないとしています。また、覇権主義的な側面も考えられ、欧州勢は気候変動対策の議論をリードし、その分野での国際的な主導権を確立したいと考えている、と主張しています。私もこの意見に同意します。

 欧米人にとってルールは "作るもの"、一方、日本人にとっては "守るもの" などと、いわれることがあります。確かに欧米人は都合が悪くなるとルールを変更します。
 1992年のアルベールビル、1994年リレハンメルと、日本は冬季五輪のノルディック複合で団体金メダルを獲得しました。日本は前半のジャンプで大量リードして、後半の距離で逃げ切るパターンで勝利を重ねていました。ところが、この後に度重なるルール変更でジャンプの比重が軽くなるといった日本に不利なルールになっていきました。勝つことができないとわかると、勝つためにルールを変える欧米人のズルさを、当時腹立たしく思っていたことを今でも覚えています。

 天然資源を大量に消費し、SDGs的にもアウトで、CO2削減もさほど役に立たないEVシフトを世界に広めようとする今の動きもまた、日本のハイブリッド技術に太刀打ちできない欧米人のルール変更に映ります。
 上図を見れば、ガソリン消費(CO2排出)を減らし、なおかつレアメタル等の鉱物資源の消費もさほど多くないハイブリッド車(HEV)が、(SDGs的に全く問題がないわけではありませんが、)次世代自動車の最適解になるのではないでしょうか。

 日本政府は、客観的な事実を積み上げ、電気自動車(EV)普及はSDGs的にアウトで、CO2削減にもさほど貢献しないことをアピールして、ハイブリッド車(HEV)こそ、今普及すべき自動車であることを世界に向けて発信しなければいけないと考えます。

 大学時代、大町北一郎先生(故人)に資源科学を教わりました。「アングロサクソンに負けるな」が先生の口癖でした。

 今の日本の政治をみると、自分の保身が第一優先で、そのためなら日本人が苦しんでも、日本の財産が海外へ不当に流出しても何とも思わない連中が、この国を差配していることが、日本人にとっての最大の不幸だと私は思います。
 日本人の利益のために、そして貧困に苦しむ世界の人たちのために、利己主義的な国々に堂々と立ち向かう政治家が日本に現れてほしいと思っています。

2023年01月02日

それでも資源は大量消費される

 現在、世界中の自動車生産は、内燃機関車(ガソリン車やディーゼル車)から電気自動車へと、急速な切り替えが進んでいます。

 電気自動車は走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラルに見合った自動車と多くの人は信じているようです。特に、走行時の電気が再生可能エネルギーで作られたものであれば、CO2のことだけ考えれば、環境にやさしい、エコフレンドリーな製品と言えそうです。

 しかし、本ブログでも取り上げてきたように、電気自動車は生産から廃棄までのライフサイクル全体で見た場合、決してエコフレンドリーではない、となってしまいます。
 生産過程におけるCO2排出は、ガソリン車などの内燃機関車よりも多いことが、複数の研究で指摘されています。
 電気自動車は内燃機関車に比べ車両が重いです。このことからだけでも、電気自動車のほうが多くの材料(資源)を使っていることが想像できます。多くの資源を使っているということは、その生産過程で多くのCO2が排出されていると推測できます。

 このように、詳細なデータを知らなくても、より重い車両という事実から、直感的に電気自動車のほうがより多くの資源を消費し、(資源をより多く消費することから)CO2をより多く排出していると想像できます。さらに、電気自動車の生産を推進している Volvo でさえも、電気自動車のほうが生産過程でより多くのCO2を排出しているといったデータを示していることなどから、それが事実であろうとなるわけです。

 また、多くの天然資源を消費しているということは、より多くの自然環境を破壊していることになりますから、この点からも決してエコフレンドリーではない、といえます。
 これまでのブログで示した様に、アルミニウムは4割増、銅は3〜4倍、電気自動車のほうが内燃機関車よりも多く消費します。また各種レアメタルも電気自動車のほうが多く消費しています。

 電気自動車が広まる世界は、石油などの化石燃焼資源の代わりに、銅やレアメタルなどの鉱物資源が大量に使われる社会になるだけで、地球資源の大量消費といった根本的な問題の解決にはつながりません。
 持続可能な社会にするには、より少ない資源消費で済む製品の開発や、エネルギー収支的にも意味あるリユースの確立を同時進行で考える必要があります。

2022年12月19日

石炭火力発電を増やす中国

 中国、COP27で「石炭火力発電所の大幅増強」を表明といったニュースがありました。中国政府は、自国のエネルギー安全保障の一環として、石炭火力発電を大幅に拡大するというのです。
(https://forbesjapan.com/articles/detail/52326)

 極端な話をすれば、エネルギー不足で自国民を凍え死にさせるのと、たとえ二酸化炭素(CO2)を排出しても石炭燃やして国民の命を守ることと、一体どちらが為政者としてあるべき姿なのか?このニュースでは、そのようなことを考えさせられました。(ただし、中国は自国民のことではなく、中国の覇権を考えてのことだと推測します。)

 昨今は欧米先進国を中心に、化石燃料からの脱却が声高に叫ばれています。日本もそれに追随し、菅政権のときに2030年の温室効果ガス排出目標について、2013年度比46%削減を打ち出しました。
 一方、ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰を受け、英国では、今年10月から家庭での電気・ガスの料金が8割値上げされました。日本でも各電力会社が来春に向けて、大幅な電気料金値上げを国に申請しているとことです。

 現代社会では生活に必須の電気やガスなどが大幅に値上げされれば、それこそ死活問題になりかねない人たちも出てくるでしょう。
 CO2削減が第一優先なのか?それとも目の前の生活を、命を守ることが第一優先なのか?日本でもこうした選択を本気で考えなくてはならない状況が、近い将来に訪れるかもしれません。

2022年12月05日

気候変動の損失と損害を補償

 会期を延長していた気候変動対策の国連の会議「COP27」で、気象災害で被害を受けている途上国などを対象に、基金を立ち上げることが決まりました。

 資金は、先進国を中心に負担することになるようです。しかし、二酸化炭素(CO2)の最大の排出国である中国が資金の負担国としては言及されていないようです。
(https://www.nippon.com/ja/news/fnn20221121447764/#:~:text=COP27では、国連の枠組み,が残されている。)

 中国で生産されたものを先進国が消費していることから、その分については、中国におけるCO2排出の実質的な当事者は先進国といった考え方もあります。
 しかし、今や中国のGDP(国内総生産)はアメリカに次いで世界第二位です。中国自体もCO2排出と引き換えに多くの富を得ています。したがって、中国も西欧先進国同様に、この基金において拠出国になる必要があります。
 また、中国が得た富は、新疆ウイグル自治区における人権侵害の上に成り立っている疑いがあります。これも無視できない大きな問題です。

 気候変動が原因と考えられている災害について、途上国が被っている損失や損害を、先進諸国が補償するといった枠組みができたことは大きな成果といえるでしょう。
 資金の拠出側に中国や新興国なども含まれるのか、今後も注目していきたいと思います。

2022年11月21日

電気自動車とアルミニウム

 「電気自動車と銅」(2022/10/31ブログ)に引き続き、今回はアルミニウムを取り上げます。

 アルミニウムは、これまで自動車の軽量化に大いに貢献してきました。軽量化することで燃費が向上します。車両の重量が10%減量すると燃費が約7%向上するといわれています。
(https://sdgsmagazine.jp/2022/04/21/5772/)
 そして、ガソリン車よりも重い電気自動車の普及に伴って、アルミニウムの需要はさらに伸びることが予想されています。
 電気自動車1台あたりのアルミニウム使用量はガソリン車より4割多く、世界需要は2030年までの10年間で6倍になると言われています。
(https://www.nikkei.com/prime/mobility/article/DGXZQOUC068WG0W2A900C2000000)

 アルミニウムの原料となるボーキサイトは、アルミニウムの水酸化物(Al2O3・nH2O)で地表近くに分布しています。
(https://www.nirs.qst.go.jp/db/anzendb/NORMDB/PDF/30.pdf)
 酸化物であるアルミナ(Al2O3)から、酸素を取り除いて純度の高いアルミニウムを精錬する方法としては、ホール=エルー法なるものがあります。
(https://www.shisaku.com/blog/anatomy/post-113.html)
 これは電気分解によってアルミニウムを精錬する方法です。正極の炭素とアルミナの酸素が結びついて二酸化炭素(CO2)が発生します。負極にはアルミニウムが引き寄せられます。

 アルミニウムを精錬するには大量の電力が必要となります。1トンのアルミ地金を製錬するのに必要な電力は、平均的な家庭の年間電力使用量の3倍強(1万3000kWh以上)にも達すると言われています。このようなことから、アルミは「電気の缶詰」などと呼ばれることがあります。
 また、24時間・365日安定的な電力供給が必要になります。仮に発電源が石炭火力であれば、CO2排出量は水力よりも当然多くなります。
(https://sdgsmagazine.jp/2022/04/21/5772/)

 さらに、アルミニウムのサプライチェーンには人権侵害といった問題もあります。
 ボーキサイト鉱山は地表レベルの採掘を伴うため、広い面積を占めることになります。これにより、農地の破壊、生活飲料水や灌漑に欠かせない河川、地下水源に壊滅的な影響を与えることがあります。
 西アフリカの国ギニアでは2019年の政府調査で、今後20年で858平方キロメートルの農地が消え、4,700平方キロメートル以上の自然生息地が破壊される算出されました。なお、同国のボーキサイト採掘地域の住民の約80%は農業を生業としています。
(https://www.hrw.org/ja/news/2021/07/22/379281)

 ボーキサイトの採掘によって、それまでの住民の生活に危害が及んでいる事実が世界各地にあるようです。
 これは、SDGs【目標6】安全な水とトイレを世界中に、【目標11】住み続けられるまちづくりを、【目標15】陸の豊かさも守ろう、などに反する行為と言えます。

2022年11月14日

電気自動車と銅

 ガソリン車(内燃機関車)やハイブリッド式電動自動車(HEV)に比べ電気自動車(EV)は、車両重量が重くなる傾向があります(Fig.1)。これはバッテリーの重量によるものです。

Fig.1 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00478/00002/ より

 電気自動車は走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しません。一方で、その製造にはガソリン車以上に多くの鉱物資源が使用されます。レアメタルはもちろんのこと、ベースメタル(埋蔵量や産出量が多く、精錬が簡単な金属)と呼ばれる銅などについても同じことが言えます。

 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構「銅ビジネスの変遷 -2000年以降-」(平成30年3月)によると、バッテリー容量により異なるものの、自動車1台当たりの銅使用量は、ガソリン車 23kg、ハイブリッド式電動自動車(HEV) 40kg、プラグイン・ハイブリッド車(PHV) 60kg、電気自動車(EV) 83kg、ハイブリッド(HV)バス 89kg、電気自動車(EV)バスで 224~369kg(Copperalliance報告)とあります。
 EV車では、電気モーターの巻線や各種配線等で大量の銅が使用されます。そしてその需要の拡大が見込まれ、2017年に185千トンであった EV車向け需要は、2027年には9倍以上の 1,740千トンに拡大すると予測されています。

 銅はベースメタルで資源量も豊富にあるのだから問題ないのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。ただし、その銅を採掘するには、精錬された銅の何倍もの土砂を掘らなければなりません。山を削れば、そこで暮らしていた生き物の生息地を奪うことになります。森林が伐採されることにより、表土が流出し土地がやせ細る、洪水が起こりやすくなるなどの環境変化も懸念されます。また、採掘目的の森林伐採はCO2削減に逆効果です。

  下図(Fig.2)は、TMR (Total Material Requirement) : 関与物質総量を示しています。TMRは、それぞれの資源を得るために廃棄された土砂等も含めた物質の総量になります。
 銅(Copper)は1kgを得るために、その400倍もの土砂を掘る必要があります。これが2027年には2017年の9倍以上になると予測されています。

Fig.2 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71043 より

 脱炭素原理主義者とでもいうべき「二酸化炭素さえ出さなければよい」といった思想は、SDGsに反するものです。過度の銅の採掘は、【目標15】陸の豊かさも守ろう、だけでなく、状況によっては【目標14】海の豊かさを守ろう、などにも反する行為になります。
 環境問題を考える際、脱炭素原理主義的な今の風潮は、問題解決から逆に遠ざかってしまうと危惧しています。

2022年10月31日

知っておきたい二酸化炭素排出量の算出方法

 2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みが「パリ協定」になります。
 パリ協定では、世界共通の長期目標として、以下を掲げています。
・世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
・そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html より)

 さて、温室効果ガス(二酸化炭素:CO2)の排出量は、どのようにして測っているのでしょうか?
 国別のCO2排出量は、「生産ベースCO2排出」と呼ばれる推計になります。直接、計器などを使って空中のCO2を測定するものではありません。ガソリン・電気・ガスなどの使用量といった経済統計などで用いられる「活動量」に、「排出係数」をかけ算して求められています。これは、たとえば「石油を燃焼する」など、“CO2排出が実際に起こった国”で排出量をカウントする方式になります。(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/co2_sokutei.html)
 この方式で求められた国別のCO2排出量が Fig.1 になります。

Fig.1 https://www.jccca.org/download/66920 より

 生産ベースによる算出は、ある製品を作った国に排出量がカウントされます。日本は多くの製品を海外から輸入しています。しかし、CO2排出量は消費する日本ではなく、例えば、中国や東南アジアの国々のものとしてカウントされます。

 Fig.2 は、製品の輸出入の量をCO2排出量に換算したグラフになります。世界の工場といわれる中国がマイナス(CO2の輸入量より輸出量が多い)になる反面、日本やアメリカ、EUなどはプラス(輸入量のほうが多い)になることがわかります。

Fig.2 https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/co2_sokutei.html より

 CO2排出量は生産国ベースではなく消費国ベースで考えるべき、といった主張は、実態をより正確に把握するには良いかもしれません。しかし、この方法で計算するためには精緻なデータが必要となることから、統計に5年を要するとのことです。(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/co2_sokutei.html)

 国別の責任を考えるには、消費ベースがより相応しいですが、CO2排出量の推移をすばやく知るには、どうしても生産ベースになってしまいます。
 ただし、この問題は世界全体にかかわることですから、生産ベースで自国が目標を達成できれば良い、といった考えでは、上記の「世界共通の長期目標」は達成できないでしょう。

2022年10月24日

ハザードマップの落とし穴

 災害が起こりそうなとき、命を守る行動を取るためには、まずは身の回りにどのような危険が潜んでいるのかを知ることが大切です。それを知るひとつの手段がハザードマップになります。

 しかし、危険を教えるはずのハザードマップが、場合によっては「安心確認マップ」になってしまう恐れがあります。
 2011年東日本大震災では、多くの方が津波の犠牲になりました。岩手県の大槌湾周辺では400人を超す死亡・行方不明者が出てしまいました。この約400人の8割に上る方々が浸水想定範囲外の住民だったというのです(https://www.kahoku.co.jp/special/spe1114/20130501_01.html)。
 東日本大震災では多くの地域で想定を超える津波が襲ってきました。この調査結果は浸水想定範囲外の住民が、「ここまでは、津波は来ない」と安心していた可能性があることを示しています。ハザードマップにより自宅の危険性を知って、危険ではない(安全)との認識が生まれ、津波からの避難を遅らせてしまった可能性があります。

 9月26日のブログでは令和元年台風19号における栃木県足利市のことをお話ししました。浸水した地域はハザードマップでは、浸水想定範囲に含まれていませんでした。これは、足利市では氾濫した旗川のハザードマップが当時はなかったためです。(足利市の洪水ハザードマップは渡良瀬川が対象)

 このように、ハザードマップは危険性を知らせてくれる地図であると同時に、見方によっては安全を知らせるマップにもなってしまいます。想定範囲外であっても、想定を超えて被害が及ぶことも十分あり得ることを教訓としなければなりません。

2022年10月03日

ハザードマップの認知度

 先週末の連休は、台風15号の影響で静岡県をはじめとして、中部地方や関東地方で大雨による被害に見舞われてしまいました。二週続けての大雨被害です。

 自分の住んでいるところが洪水で、どの程度の浸水被害に見舞われる可能性があるのか、また、避難場所はどこにあるのかなどが記された地図を洪水ハザードマップといいます。各自治体で作成し、全戸配布したり市町村のホームページで紹介したりするなどして、住民への周知徹底を図っています。
 毎年、日本のどこかで風水害が発生しています。日本に住んでいれば、風水害はもはや他人事ではありません。ハザードマップから浸水の危険性や避難場所を確認しておくことは、命を守るためには大切なことです。
 なお、ハザードマップは洪水のほかに、土砂災害や地震、火山、津波などがあります。

 平成30(2018)年7月豪雨では、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨が発生し、死者224名にのぼる被害となりました。(http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/2018/20180713/jyun_sokuji20180628-0708.pdf)
 大きな被害が出たまちのひとつ岡山県倉敷市真備地区では、事後に兵庫県立大の阪本准教授らによってハザードマップの認知度等に関する調査が実施されました。その結果、ハザードマップの認知度は75%でしたが、内容まで理解していた人の割合は24%にとどまりました。
(http://www.bousai.go.jp/fusuigai/suigai_dosyaworking/pdf/dai2kai/sankosiryo3.pdf)

 一方、令和元(2019)年台風第19号等により、人的被害が生じた市町村住民におけるハザードマップの認知度調査では、51.3%と半数以上が「見たことがあり避難の参考にしている」と答えました。また、ハザードマップを見たことがあり、かつ自宅が浸水想定区域内などに入っている人の43.5%が実際に避難行動をとっていました。これに対し、ハザードマップ等を見たことがない人の避難行動は16.4%に過ぎませんでした。(https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r02/zuhyo/zuhyo1-01_01_02.html)
 命を守る行動を起こせるかどうか、ハザードマップで危険性を知ることが、まずは大切と言うことができます。

 栃木県足利市では、令和元(2019)年台風第19号の影響で、旗川が氾濫し1名の方が亡くなられました。しかし、浸水した地域は浸水想定エリアに含まれていませんでした。これは、足利市のハザードマップが渡良瀬川の氾濫を想定したもので、旗川の氾濫が考慮されたものではなかったからです。
 このように、今ある洪水ハザードマップが地域を流れるすべての河川を対象としているとは限りません。通常自治体では、河川ごとのハザードマップを作成しています。どの河川のハザードマップなのかを確認しておくことも大切になります。

2022年09月26日

台風は凶暴化しているのか?

 19日現在、台風14号が日本列島を襲っています。最新の情報をこまめにチェックして、事態が深刻化する前に避難行動をとることが自らの命を守ることにつながります。

 地球温暖化により、近年台風が巨大化、凶暴化している、といったことを時々耳にすることがあります。
 下表は、気象庁ホームページになる「中心気圧が低い台風 (統計期間:1951年~2022年第2号まで) 上陸時(直前)の中心気圧が低い台風」10個になります。今回の台風14号は上陸直前が935hPa(ヘクトパスカル)とのことなので、1951年10月14日の台風と並んで4番目に中心気圧が低かった台風になります。

Table 1: https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/ranking/air_pressure.html より

 この表を見ると、1950年代に4個、60年代に3個、70年代に1個、90年代に2個となっています。2000年代以降にはひとつもありません(ただし、今回の台風14号が2000年以降初めてランクインすることになります)。
 ということは、地球温暖化の影響で、近年台風が凶暴化しているといった事実は、少なくとも日本については当てはまらないことになります。

 下図はそれぞれ、1951年から2021年までの全国への台風接近数と台風上陸数を示しています。いずれも気象庁ホームページに掲載されているデータから作成しました。

Fig.1: https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/accession/accession.html より作成

Fig.2: https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/landing/landing.html より作成

 いずれを見ても、近年増加しているわけではありません。

 地球温暖化で台風が凶暴化しているとか、増加しているとか言われると、何となく「そうかな」と思ってしまうかもしれませんが、データはその主張が正しくないことを示しています。

2022年09月19日

電気自動車のCO2排出量、実はもっと多い?

 9月5日付のブログ「電気自動車とレアメタル」では、レアメタルのひとつコバルトについて、SDGs的にナシ!な事実を取り上げました。マスコミが紹介しない(世間にあまり知られていない)レアメタルの実態については、まだまだ述べたいことがありますが、今回は電気自動車 (EV) の環境破壊に関する注目すべき記事を紹介します。

 「バッテリー生産における「知られざる環境負荷」が明らかになってきた 」(https://wired.jp/article/the-surprising-climate-cost-of-the-humblest-battery-material/)は、WIREDの2022/6/20付の記事です。
 電気自動車に搭載されるバッテリーについては、正極で使われるレアメタルに関心が集まりがちです。この記事は負極に使用されるカーボン(グラファイト:黒鉛)に焦点を当てています。

 負極材のグラファイトが環境に及ぼす影響が低く見積もられていたことを、ある2つの研究が明らかにしたという内容です。生産工程で排出される二酸化炭素(CO2)は、これまでの推定値より最大で10倍にもなるというのです。「企業が環境影響評価によく用いている数字について、実際より大幅に影響を低く見積もっていることをどちらの研究も示した」とあります。
 具体的には、負極に使われているグラファイトの9割超が中国産で、その大半が石炭火力発電に依存する内モンゴル自治区で製造されていた事実がわかったことにより、これまでの仮定が崩れるといった内容です。

 仮にこの研究結果が事実だとすると、本ブログで計算してきたこと、そのベースとなった Volvo (2021) にあった数値も変わってしまいます。
 電気自動車推進派の人たちからすれば、バッテリー製造工程の環境負荷は特に低くしたいでしょう。本当にに低くなってくれれば良いのですが、実際よりも低くみせようとしていたなら大問題です。

 先日、"zero emission" と車体後部に書かれた電気自動車を目にしました。走行時だけのことを取り上げれば間違いではないかもしれません。しかし、その電気の大半は現在、火力発電で賄われています。仮に、再生可能エネルギーで充電されたとしても、新車納入時点で既に大量のCO2を排出しているのが電気自動車の実態です。
 こうした事実に目を背けていたなら、二酸化炭素排出削減のため、と称して電気自動車を推進しても、地球温暖化は決して改善できないでしょう。

2022年09月12日

電気自動車とレアメタル

 電気自動車 (EV) の生産は、実は二酸化炭素 (CO2) 排出ひとつとっただけでも、決して環境に良いものではないことが、これまでの調べてわかりました。そして、SDGsが掲げる「持続可能な開発(発展)目標」、言い換えるなら、技術革新によって環境保全と経済成長を両立させることは極めて難しいことが、以前に取り上げたLEDの話に加え、電気自動車とCO2排出との関係からも明らかになりました。
 仮に、技術革新により商品一個の環境負荷が従来品より軽減できたとしても、商品の総量が増えれば全体の環境負荷は増えてしまいます。際限ない開発(発展)が経済成長を意味するなら、SDGsは絵に描いた餅です。

 さて、今回は電気自動車がSDGs的にアリかナシかを、レアメタル、レアアースの視点から考えてみます。
 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)のレアメタル・レアアース特集(https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/study/index.html)によれば、レアメタルの明確な定義はありません。「地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属のうち、安定供給の確保が政策的に重要(経済産業省)」で、産業に利用されるケースが多い希少な非鉄金属を指す、とあります。
 レアメタルは必ずしも資源的にレア(希少)とは限りません。例えばチタンなどは地中埋蔵量は多いものの、高純度なものへと精錬することが技術的に難しく、そのコストが非常に高額になるため、レアメタルに分類されるものもあります。
 一方、レアアースとはレアメタルのうち、スカンジウム、イットリウム、ランタンからルテチウムまでの17元素のグループ(希土類元素)のことを指します。

Fig.1 「元素周期表」から見るレアアース
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/study/index.html より引用

 こうしたレアメタル、レアアースは、現代社会を支える重要な元素といえるでしょう。そして、電気自動車にとっても、不可欠な元素になります。
 資源エネルギー庁ホームページにも「EV普及のカギをにぎるレアメタル」といった記事があります(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ev_metal.html)。
 電気自動車にはさまざまなレアメタルが使われています。別の記事「xEVに必須のレアメタル「コバルト」の安定供給にオールジャパンで挑戦」(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cobalt.html)では、コバルトに焦点をあてています。ちなみにxEVとは、電気自動車だけでなくハイブリッド車など電動化された自動車全般を指します。

 コバルトは、埋蔵量、生産量ともにアフリカのコンゴ民主共和国が世界第1位です。いずれも世界の約半分を占めています(https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2018/5031cf98b023cbd4.html)。
 このコンゴ共和国におけるコバルト生産の実情に触れると、電気自動車はSDGs的にナシ!なことがわかります。

 「不満を言えば即解雇 時給46円…環境に優しいEV車のために“奴隷労働”させられるコンゴの人々」(https://courrier.jp/news/archives/269300/)
 「コロナ禍で「まるで囚人のような待遇」 中国人上司にぶたれ、罵られ… コンゴ人労働者を搾取するEV産業の“深すぎる闇”」(https://courrier.jp/news/archives/269301/)
 上記2つの記事は「EV車の労働問題」として取り上げられています。タイトルからおおよその内容が推測できるかと思います。
 「命を削って掘る鉱石 コンゴ民主共和国における人権侵害とコバルトの国際取引」(https://www.amnesty.or.jp/library/report/pdf/drc_201606.pdf)では、児童労働の実態が伝えられています。
 
 このように、レアメタルのひとつ、コバルトを取り上げただけでも、SDGs【目標1】貧困をなくそう、【目標4】質の高い教育をみんなに、【目標10】人や国の不平等をなくそう、などに反していることがわかります。
 コンゴ共和国で生産されたコバルトを使用したバッテリー、そのバッテリーを搭載する電気自動車は、人権面からも SDGs的にナシ!となってしまいます。

2022年09月05日

電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (6)

 今回は、電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (5) 同様に、case1) 2020年の販売台数を9500万台、2050年を1億2500万台とし、毎年100万台の増産とした場合、に加え、case2) 2020年から2050年まで販売台数は9500万台のままとした場合、とで、2020年から2050年までの間に排出されるCO2の総量を比較してみます。

 case1) のガソリン車と電気自動車の比率は、電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (5) と同じです。そして、年間2万キロ走行で20万キロ走行時点(10年間)で廃車とします。
 Fig.1 は年ごとの生涯CO2排出量を表しています。例えば2020年は、ガソリン車と電気自動車あわせて9500万台が生産されます。それらがすべて20万キロ(10年間)走った場合に排出されるCO2排出量が2020年の棒グラフになります。
 2042年以降は2050年まで、9年分、8年分、、、1年分の排出量になるため、グラフが右下がりになります。
 このようにして見積もられた2050年までに排出されるCO2の総量は、16,865,225 [トン] となります。

Fig.1

 case2) はすべてガソリン車で計算します。2042年以降は case1) と同様の理由でグラフが右下がりになります。
 このようにして見積もられた2050年までに排出されるCO2の総量は、15,562,900 [トン] となります(マイナス7.7%)。

Fig.2

 2020年から2050年までに排出されるCO2の総量でみても、経済発展(毎年増産)を技術革新(電気自動車)で補おうとするSDGs的発想は破綻していることがわかります。
 技術革新をせずに(ガソリン車のまま)、経済発展を抑制(生産台数は横ばい)したほうが、2050年までに排出されるCO2が削減できる計算になります。

 これまで数回にわたって考えてきた電気自動車普及の効果については、ある仮定にもとづく単純な計算に過ぎません。
 しかしながら、今世界の大きな流れになっている電気自動車への移行については、人類が生き延びるための地球環境保全を優先するのであれば見直すべき、少なくとも再考すべき事案です。
 一方、資本主義における主導権争いが優先されるならその必要はないでしょう。

 SDGs そのものが、どうも大きな矛盾を抱えていることが、これまでの調べで見えてきました。
 そのことは横に置いて、再度、 電気自動車はSDGs的にアリか?を考えると、CO2排出だけでなく、別の面からも SDGs的にナシ!といえることがあります。そのことについては、また別の機会に考えてみたいと思います。

2022年08月02日

電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (5)

 電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (4) では、2020年以降に販売される自動車が全てガソリン車だった場合と、全て電気自動車だった場合とで、2050年までに排出される総CO2排出量の比較を行ってみました。
 その結果、全て電気自動車のほうが 11.3% の削減となりました。しかし、全てガソリン車で販売台数を2050年まで同じにしたほうがよりCO2が削減できる、言い換えるなら販売台数を調整したほうが、電気自動車に乗り換えるより効果的でした。

 CO2の排出量は、毎年見積もられています。そこで、今回は年ごとのCO2排出量を単純なモデルで考えてみます。
 大和証券による「世界の自動車販売台数の見通し」(https://www.daiwa.jp/products/fund/201802_ev/change.html)をもとに、2020年の販売台数を9500万台、2050年を1億2500万台とし、毎年100万台の増産とします。
 ガソリン車と電気自動車のCO2排出量の見積りは、今回も Volvo (2021) を使用し、全車1年間で2万キロ走行したと仮定します。

 ガソリン車と電気自動車の比率については、2020年にガソリン車9050万台、電気自動車450万台とします。ガソリン車は毎年350万台減産、電気自動車は毎年450万台増産し、2046年でガソリン車0台、電気自動車1億2100万台になるようにします。
 その結果を示したグラフが Fig.1 になります。

Fig.1

 (なんと!)多くの人が良かれと思っている電気自動車を増やせば増やすほど、年ごとのCO2排出量は毎年増えてしまいます。

 SDGs(持続可能な開発目標)では、経済成長と気候変動対策を技術革新で両立させることを目的としていると考えられます。
 ところがこの図(Fig.1)は、電気自動車という新たな技術による経済成長と、気候変動対策としてのCO2削減は両立しないことを物語っています。

 では、販売台数を2050年まで9500万台のままにしたらどうでしょう?
 Fig.2 はその仮定での見積もりです。それでも、2046年まで毎年のCO2排出量は増えてしまいます。

Fig.2

 次に、毎年100万台の減産で、2050年には電気自動車のみ6500万台になるとしたらどうでしょう?
 Fig.3 がその結果になります。2046年までほぼ横ばいで経過しています。
 車両総数を毎年減産しても、電気自動車の割合を増やしてしまっては、CO2排出量削減にはならないようです。

Fig.3

 非常に単純化した見積りではありますが、電気自動車の普及は、毎年のCO2排出量を減らすどころか、むしろ増やす結果になってしまうようです。

2022年07月26日

電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (4)

 電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (2) と (3) で、ガソリン車と電気自動車(EV)の生涯にわたる二酸化炭素(CO2)排出量の比較を見てきました。
 いずれの試算でも、新車時点では電気自動車のほうがCO2排出量が多いものの、9万〜11万キロメートル走行した時点でガソリン車より減少するといった結果でした。
 果たして、この結果が意味するところは実際どういったことなのでしょうか?単純化したモデルで考えてみます。

 下記のグラフ(Fig.1)は大和証券のホームページにあった「世界の自動車販売台数の見通し」になります。

Fig.1:https://www.daiwa.jp/products/fund/201802_ev/change.html より

 このグラフから、2020年の自動車販売台数を9500万台、2050年が1億2500万台とします。
 SDGsの最終目標年である2050年までの31年間に、世界の自動車が出すCO2の総量を、ガソリン車と電気自動車とで比較してみます。ここでは、現在走っている自動車のことは無視し、新車販売される車のみの影響を考えます。

 Fig.1では年を追うごとにガソリン車が減り、電気自動車が増えていますが、簡単のため、毎年、全てガソリン車もしくは全て電気自動車が販売されるものとします。また、毎年100万台ずつ増えて、2050年が1億2500万台になるものとします。

 https://carlease.carlifestadium.com/column/2021/01/20/車の走行距離はどれくらいが目安になる?維持費/ などでは、日本における一般的な車の年間走行距離を、10,000キロ程度としています。
 一方、https://jdpower-japan.com/column/3346/#:~:text=アメリカ合衆国運輸省によると,ほど車を運転する。 によれば、平均的なアメリカ人の年間走行距離は、約13,474マイル* (約21,684キロ)です。

 ここでは、年間走行距離を2万キロとし、20万キロ(10年間)走行した時点で廃車になると仮定します。
 ガソリン車と電気自動車の生涯にわたるCO2排出量の値は、Volvo (2021) :https://www.volvocars.com/images/v/-/media/Market-Assets/INTL/Applications/DotCom/PDF/C40/Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf を参考にします。

 2020年に販売される9500万台の生涯にわたるCO2排出量は、ガソリン車の場合は 59トン × 9500万台、電気自動車の場合は 50トン × 9500万台になります。2021年以降は、毎年100万台ずつ増えて同じ計算をします。
 しかし、2042年以降に販売される自動車については、2050年までに20万キロ(10年間)に到達しません。2042年は18万キロ、2041年は16万キロ、・・・、2050年は2万キロ走行時点でのCO2排出量で計算します。

 9万~11万キロが、ガソリン車の総CO2排出量が電気自動車を上回る分岐点なので、下表(Table1)のように、2046年以降は、逆に電気自動車の総CO2排出量がガソリン車を上回ることになります。

Table1 生涯CO2排出量比較


 2020年以降に販売される自動車が全て電気自動車だった場合、2050年までに排出される総CO2排出量は、ガソリン車のそれに比べ 11.3% の削減となります。
 一方、全てガソリン車として、販売台数を2050年まで毎年9500万台のまま、とした場合はどうでしょう?
 1.4% とわずかではありますが、前述の全て電気自動車の総CO2排出量より少なくなります。

 2022年4月4日付の「SDGsは実現可能か?」で、LEDランプを例に書きましたが、省電力な商品であっても、使用する数量が増えてしまえば、消費電力は増えてしまいます。CO2排出量についても同様です。

 また、9万〜11万キロ走行した時点で、電気自動車のほうがガソリン車より総CO2排出量が減少するということは、新車から、日本なら10年間、アメリカなら5年間は、電気自動車のほうがより多くのCO2を排出しているということを意味します。

 電気自動車は作れば作るほど、完成した段階では、皮肉なことに、より多くのCO2を排出してしまいます。
 そして、上記の単純な思考実験のように、減らせたとしても一割強。それよりも、生産台数を制限した方が効果的です。

 使用すれば 9万〜11万キロで逆転するとはいえ、新車段階でガソリン車よりも多くのCO2を排出している電気自動車って、はたして本当に「環境にやさしい」といえるのでしょうか?疑問を抱いてしまいます。

2022年07月19日

国を守る。暮らしを守る。

 7月10日投開票の参議院選挙で示された各党の選挙公報をあらためて見ますと、「国を守る」、「暮らしを守る」、「日本を守る」といった文言を複数の政党が示していました。
 これは、ロシアのウクライナ侵攻に関連した軍事的な意味だけでなく、エネルギーや食糧など私たちの生活に関わる危機感から、政治が国民の生活を守ることを訴えたかったからではないかと推測します。

 選挙前の5月、自民党は原油や小麦などの価格高騰に対し、食料の安全保障強化策として、小麦や大豆の国産化を進めるとの報道がありました(https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000254959.html)。
 この報道を聞いたとき、最初に思ったことは「誰が作るのだろう?」といったことです。農家の高齢化と後継者難はすでに顕在化しています。そればかりか、日本社会全体が高齢化しています。いったい誰が作物を作るのでしょうか?
 「外国人技能実習生を増やせば良い」などと考える人がいるかもしれません。しかし、外国人技能実習生の制度は「現代の奴隷」などと非難されることもあります。それに、国力がどんどん低下している日本に、労働者として外国人を惹きつける魅力が今後もあるとは限りません。より賃金の高い国に外国人労働者を奪われることも考えられます。

 若い働き手がいないということは、農業だけでなく私たちの暮らし全般が脅かされます。国土強靭化で防災力アップといっても、誰がそのハードを整備するのでしょうか。各地の消防団員も減少しています。防衛については、予算を増やして武器や設備を充実させることは可能でしょう。しかし、自衛隊員がいなければ国は守れません。

 よく「少子高齢化」といった言葉が使われますが、少子化と高齢化は別物です。高齢化が進んでいたとしても、少子化でなければ、言い換えるなら高齢者を支える働き手がいれば、今の年金問題などは生じません。

 国を守ること、暮らしを守ること、その礎は人です。

2022年07月12日

電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (3)

 電気自動車(EV: Electric Vehicle)の生涯(ライフサイクル)にわたる二酸化炭素(CO2)排出量の見積りについて、今回は自動車メーカーのマツダが関与した論文と、その反論のWeb記事を取り上げます。

 Kawamoto et al., 2019, Estimation of CO2 Emissions of Internal Combustion Engine Vehicle and Battery Electric Vehicle Using LCA, Sustainability, doi:10.3390/su11092690 によれば、
 (1) 新車完成時のCO2排出量は、EVのほうがガソリン車やディーゼル車よりも多いが、走行距離が長くなると逆転する。
 (2) 世界の地域により、発電方法(火力や再生可能エネルギーなど)が異なるため、EVのCO2排出量は地域で異なる。
 (3) EVの普及だけがCO2排出削減の解決策ではなく、地域の特性を考慮しガソリン車やディーゼル車の利用も必要。
としています。
 特に (3) は、ガソリン車やディーゼル車を生産し続けるマツダらしい結論に感じます。

 これに対し、EVsmartBlog (https://blog.evsmart.net/) などEV推進派が反論しています。
 この論文の内容自体に誤りはなさそうなものの、前提条件のいくつかに問題があると指摘しています。(https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/electric-is-cleaner-mazda-lca/ )

 ひとつは、バッテリー製造時のCO2排出量です。論文の引用は古いデータであり、近年のデータよりも排出量が多く見積もられている、としています。
 論文は2019年に発行されていますが、引用データは2010年〜2013年と確かにやや古いです。

 次に、この論文では16万キロメートル走行した時点でバッテリーを交換する必要があるとしています。16万キロはメーカーの保証期間になります。
 一方 EVsmartBlog は、テスラ車のバッテリー性能を調査しているある研究が、25万7千キロ走ってバッテリー劣化が10%といった結果を示していることから、16万キロ走行時点でのバッテリー交換は不要と主張しています。

 そして、こうした前提条件を現実的なものに置き換えて、この論文同様の計算をした場合、日本では9万〜11万キロメートル走行した時点で、EVの生涯CO2排出量がガソリン車を下回る、としています。

 6月21日付「電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (2)」では、ボルボによる見積りを紹介しています。
 通常の発電方法の場合は約11万キロメートル、世界の平均的な再生可能エネルギーで供給された場合は約7万7千キロメートルが逆転する距離でした。

 マツダ論文(Kawamoto et al., 2019)の前提条件を変えて再計算した EVsmartBlog による結果は、ボルボによる見積りに近いものとなりました。
 となると、EVsmartBlog の結果のほうが、もっともらしいと感じてしまいます。

2022年06月28日

電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (2)

 電気自動車(EV: Electric Vehicle)の二酸化炭素(CO2)排出量を正確に見積もることは、大変困難な作業になります。その理由は、特にCO2排出量が多いとされるバッテリー製造に関わるサプライチェーンが複雑なことにあります(6月14日付「電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (1)」参照)。

 それでも、どれだけ環境負荷を軽減できるのかを見積もることは、EVへの移行が意味あることなのかどうかを判断するためには必要なことです。
 まずは、2030年までに新車販売のすべてをEVにすると発表したスウェーデンの自動車大手ボルボによる見積もりを取り上げます。
 これについては、日本語で紹介している「電気自動車の製造時には「ガソリン車の1.7倍のCO2を排出」していた!ボルボの試算だと、EVがガソリン車よりもエコになるには、約11万キロも走らねばならない」投稿日:2021/11/14 (https://intensive911.com/?p=246523)が参考になります。
 元の報告書は、https://www.volvocars.com/images/v/-/media/Market-Assets/INTL/Applications/DotCom/PDF/C40/Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf になります。

 この記事によりますと、同社の電気自動車である「C40リチャージ(XC40リチャージのクーペボディ)」の製造工程では、そのガソリン版である「XC40」に比べて70%以上(1.7倍)の排出ガス(CO2)が発生する、とのことです。この実験は、原材料の採掘から廃棄までの12万4,000マイル(20万キロ)におけるLCA(ライフサイクルアセスメント)による検証です。
 注目点は、それが2030年までに新車販売のすべてをEVにすると発表した自動車メーカーによってなされたことです。言い換えるなら、推進派がEVはエコとは言い切れないことを示したということです。
 これに対して、仮定が間違っている等の指摘をしているネット記事もありますが、そもそも正確に見積もること自体が難しい問題です。いろいろと注文をつけることはできるでしょう。

 さて、クルマの寿命を長期的に考慮した場合、損益分岐点(ガソリン車とEVの総CO2排出量が逆転する走行距離)がある点にも注意しなければなりません。
 この損益分岐点は、再生可能エネルギーを使っているかどうかといった発電方法によって異なってきます。その分岐点は供給エネルギー別で以下になります。
 (1) 通常の発電方法の場合:約11万キロメートル
 (2) 世界の平均的な再生可能エネルギーで供給された場合:約7万7千キロメートル
 (3) 全て再生可能エネルギーの場合:約4万9千キロメートル

https://www.volvocars.com/images/v/-/media/Market-Assets/INTL/Applications/DotCom/PDF/C40/Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf より

 上図の点線がガソリン車になります。走行距離ゼロのときは、EVよりもCO2排出量が少ないですが、例えば、約4万9千キロメートル走ったところで、全て再生可能エネルギーで充電されたEVよりも多くのCO2を排出することが示されています(図中の49の数字のところ)。

 下表は、ガソリン車(XC40 ICE)とEVの充電時の発電方法別による20万キロメートル走行時のCO2排出量を見積もったものです。

https://www.volvocars.com/images/v/-/media/Market-Assets/INTL/Applications/DotCom/PDF/C40/Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf より

 Materials production and refining が原材料の採掘と生産工程、Li-ion battery modules がリチウムイオンバッテリー製造時、Use phase emissions が走行時におけるぞれぞれのCO2排出量の見積りになります。
 「電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (1)」では、EV の生涯にわたるCO2総排出量の約80%は、バッテリー製造時と使用時の電力を作る際に発生する(Mark Mills, 2021)、とありましたが、この表からバッテリー製造時と使用時の電力を C40 Recharge (global electricity mix) で計算すると、(7+24)/50 = 62% となります。
 Materials production and refining がガソリン車より4トン多いですが、これもバッテリー製造に関わるものとした場合でも、(4+7+24)/50 = 70% と、Mark Mills (2021) の 80% にはならず、少し開きがあります。

 次に、EVの新車完成時点(走行前)におけるバッテリー製造が占めるCO2排出量の割合は、7/(7+18) = 28%になります。上記同様に、Materials production and refining がガソリン車より4トン多い点を考慮すると、(4+7)/(7+18) = 44% になります。
 EVの新車完成時点でバッテリー製造により排出されるCO2は、生涯排出量の28%〜44%もあると考えられます。

 今回のボルボの試算は、走行時の発電方法の違いまで考慮したものでした。しかし、石油採掘からガソリン精製、そして給油までに排出されたCO2と、発電設備建設に必要な資源採掘から発電、そして車へ充電されるまでに排出されたCO2との比較までは考慮されてはいないようです。(上表の global electricity mix, EU-28 electricitymix, wind electricity の Materials production and refining が全て18トンと同じことからの推測。)

 EVの普及には給油所ならぬ給電所の設置も必要になります。給電所のほかに需要拡大に伴う新たな発電所建設も必要になるでしょう。このような点にも注意が必要です。

2022年06月21日

電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (1)

 電気自動車(EV: Electric Vehicle)で後塵を拝していた日本企業も今、その開発に力を入れています。
 脱炭素やカーボンニュートラルが叫ばれ、世界(特にヨーロッパ)の自動車市場からはガソリン車だけでなく、ハイブリッド車まで締め出されてしまおうとされています。

 こうした動きは、SDGs や地球温暖化にかこつけた金儲け(覇権争い)と考えると、いろいろ納得のいくことが多いのですが、そのことはさておき、電気自動車はSDGs的にアリといえるのか?を考えてみます。

 過日、脱炭素を取り上げていたNHKの番組のなかで、ある子供がその解決法として電気自動車の普及をあげていました。ガソリン車がなくなって電気自動車になれば明るい未来が待っている、と思わされている人は多いのではないでしょうか。
 かく言う私も、最近まで何となくいいのかな?と思っていました。ところが色々調べてみると、本当に環境に良いのか?と疑念を抱くようになってしまいました。

 EV に限らず製品やサービスの本当の二酸化炭素(CO2)排出量を見積もるには、使用時だけでなく、原料の採掘や加工から輸送、製造、廃棄(リサイクル)に至るまで全般に渡る総排出量で考えなければなりません。使用時もそれ以外のときでもCO2であることに変わりありません。
 仮に、使用時のCO2排出量が少なかったとしても、製造時等で大量に排出していたなら、それも大きな環境負荷となります。

 こうした「揺り籠から墓場まで」でのライフサイクル全体で、環境負荷を定量的に評価する方法がライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)になります。
 EV とガソリン車のCO2排出量を比較するには、使用時のみで考えるのではなく、このLCAによる評価が適切です。

 Mark Mills, 2021, The tough calculus of emissions and the future of EVs, From materials and batteries to manufacturing, calculating the real carbon cost of EVs is just getting started (https://techcrunch.com/2021/08/22/the-tough-calculus-of-emissions-and-the-future-of-evs/) は、LCAによるEVの本当のCO2排出量に関する報告になります。

 この文献では冒頭で、「投資家や政治家は、EVが世界の二酸化炭素排出量を大幅に削減すると考えているが、それは決して明らかではない。」と、EV によるCO2排出削減効果は明確ではない(場合によっては疑わしい)と言っています。
 EV の生涯にわたるCO2総排出量の約80%は、バッテリー製造時と使用時の電力を作る際に発生するとしています。

 これに対して、「使用時の発電を再生可能エネルギーにすればCO2は減る」といった主張があります。発電についてもLCAで考える必要がありますが、その考察は別途機会に譲ります。
 また、環境負荷はCO2排出だけではありません。本当に環境負荷を減らしたいなら、CO2以外の環境負荷についても考察すべきです。さらに、SDGsの観点からは、人権などの要素も考慮しなければなりません。 

 話を戻します。Mark Mills (2021) によれば、バッテリー製造に関わるサプライチェーンが複雑なため、CO2排出量の数値化がそもそも困難だと主張しています。
 例えば、50の学術研究を調査した論文(レビュー)によれば、EVのバッテリー1つを製造する際に排出されるCO2は8〜20トンと大きな幅があるとのことです。EV用バッテリーが作られるまでのCO2排出量は、無数の仮定に基づく推定値である、としています。
 要はどのような仮定を採用するかによって、結果が大きく変わってくるということです。別の言い方をするなら、バッテリー製造までに排出される真のCO2量は、今のところ誰にもわからないということになります。

 それでも、ある仮定によりCO2排出量を算出して、どれだけ環境負荷を軽減できるのかを見積もることは重要です。
 具体的な見積もりの考察については、次回以降に取り上げます。

2022年06月14日

レジ袋、種類別の環境負荷

 5月31日のブログ「レジ袋vsマイバッグ」では、レジ袋とマイバッグの環境負荷を二酸化炭素(CO2)排出量の視点から研究した結果を紹介しました。ひと言でいえば、マイバッグのCO2排出量はおよそ50回使ってレジ袋並みになる、といった内容でした。

 今回は2018年に発表されたデンマークの研究結果 "Life Cycle Assessment of grocery carrier bags" (https://www2.mst.dk/udgiv/publications/2018/02/978-87-93614-73-4.pdf) を見てみたいと思います。
 デンマーク国内で容易に手に入るキャリーバッグの種類別に、スーパーマッケットから家庭まで、平均容積22リットル、平均重量12キログラムの1回分の食料品を運ぶ想定の実験になります。1回分で12キログラムの食料品とは、かなり重いですね。
 基準となる平均的なレジ袋はLDPE(低密度ポリエチレン)1枚になります。LDPEは日本で流通している大半のレジ袋原料HDPE(高密度ポリエチレン)に比べて柔軟性があります。日本のレジ袋に慣れていると、使いにくいと感じるかもしれません。
 プラスチック系のキャリーバッグは、シンプルなLDPE製意外にハンドルが硬質なLDPE製やリサイクルLDPE、バイオプラスチック製など8種類、紙製は無漂白と晒し、繊維製はコットン(綿)とオーガニックコットン、さらに繊維とプラスチックの複合素材製を含め、計13種類別にLCAの観点から環境負荷の度合いを導き出し、比較しています。
 環境負荷の度合いは、気候変動、オゾン層破壊、資源枯渇(化石および生物)、水資源枯渇など推奨環境影響(EUC2010)とよばれる複数の項目に対して実施されました。

 比較は、平均的なレジ袋LDPEキャリーバッグをゴミ箱用に再利用した場合とで行われました。
 結果、LDPE以外のプラスチック製キャリーバッグは、環境負荷の全指標を考慮した場合、30〜80回程度は買い物袋としての再利用が必要となりました。紙製は40回程度でした。
 一方、従来のコットンは7,100回、オーガニックコットンは20,000回、そして複合素材が870回でした。

 石油由来のプラスチック製よりも、天然素材のコットンのほうが環境負荷が大きい、しかもオーガニックコットンが最も大きい結果を示しています。
 首をかしげてしまいます。なぜコットン、なかでもオーガニックコットンの環境負荷がそんなに大きいのか?この報告書からは、その理由を読み取ることができませんでした(私の力不足かもしれませんが、、、)。

 コットンの謎はさておき、5月31日付「レジ袋vsマイバッグ」でも、今回のデンマークの研究結果でも、レジ袋より丈夫なマイバッグ等は、丈夫な分、環境負荷が大きくなることは確かなようです。
 どうやら、レジ袋を繰り返しレジ袋として再利用することが、最も環境負荷が小さくなりそうです。しかし、さほど丈夫ではないので、何十回も再利用するのは無理かもしれません。

2022年06月07日

レジ袋vsマイバッグ

 レジ袋が有料化されて以降、個人で実践しているSDGsの取り組みとして「マイバッグを使う」と答える人は多くなったのではないでしょうか。
 有料のレジ袋を買うのはもったいないと考える人もいるかもしれませんが、SDGsを意識している人なら「地球環境のため」にマイバッグを使うと考えているでしょう。

 しかし、本当に環境に良いのか?自分で調べて納得して、レジ袋からマイバッグへと移行した人は、実際のところかなり少ないのではないかと思います。なぜなら、マイバッグも環境に負荷を与えているからです。使い方によっては、それがレジ袋以上になることもあります。

 眞弓和也ほか, 2009, 環境配慮行動支援のためのレジ袋とマイバッグのLCA(https://www.jstage.jst.go.jp/article/ilcaj/2008/0/2008_0_130/_pdf)は、レジ袋とマイバッグのCO2(二酸化炭素)排出量を算出した調査報告になります。
 LCA (Life Cycle Assessment: ライフサイクルアセスメント) とは、製品のもととなる資源採取から廃棄に至るまでの全過程(ライフサイクル)における環境負荷を科学的に評価する手法です。
 Fig.1 はプラスチックを例にしたLCAの概念になります。

Fig.1:LCAを考える 「ライフサイクルアセスメント」考え方と分析事例, 一般社団法人 プラスチック循環利用協会(PWMI), 2019 (https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf6.pdf)

 さて、眞弓和也ほか (2009) ではレジ袋とマイバッグそれぞれ1枚づつのLCAからCO2排出量を比較しています。
 前提条件は、1枚の重量がレジ袋 3.0g, マイバッグ 32.2g, 原料・製造・輸送・処分それぞれの段階で排出されるCO2の合計がレジ袋 15.4g, マイバッグ 781.7g です。全段階でマイバッグのほうがCO2排出量が多くなります。特に原料と製造段階でポリエステル生地の製造と製品加工にかかる環境負荷が大きくなっています。
 Fig.2 は買い物の回数とCO2排出量の関係をまとめた図になります。

Fig.2:LCAを考える 「ライフサイクルアセスメント」考え方と分析事例, 一般社団法人 プラスチック循環利用協会(PWMI), 2019 (https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf6.pdf)

 マイバッグは耐用使用回数の異なる3種類で比較しています。
 レジ袋は1回に1枚使用、マイバッグはそれぞれ耐用使用回数の上限(25, 50, 100回)に達したら、新しいものに買い換えます。そのため、マイバッグのグラフは階段状になっています。

 この図が示していることは、耐用使用回数25回のマイバッグだとレジ袋よりCO2排出量が多く、50回のマイバッグで同程度、100回耐えうるものなら、100回を超えた段階でレジ袋よりCO2排出量が少なくなる、といったことになります。

 「レジ袋よりマイバッグ」と安易にいえないことがわかります。また、「これ、おしゃれ」などとマイバッグをいくつも買うこと自体、レジ袋よりも大きな環境負荷を与えているということになります。

 本気で環境負荷を少なくしたいなら、政府やマスコミの宣伝をまずは疑って、自分で調べてみることが大切なようです。

2022年05月31日

原料から考えるレジ袋有料化の効果

 レジ袋の原料はポリエチレンで、ポリエチレンはプラスチックの一種です。
 そして、プラスチックは石油からつくられるナフサが原料となります。レジ袋は石油の一種ナフサが原料というわけです。

 5月2日のブログ「レジ袋有料化は地球温暖化抑止に役立つのか」では、ポリエチレン市場規模の年推移からレジ袋有料化の効果(地球温暖化抑制、CO2削減)を検証してみました。
 その結果、ポリエチレンの消費削減効果はあったとしても2020年のたった1年でしかない可能性が示されました。

 今回は、さらに上流にさかのぼって、ナフサの消費(需要)から、レジ袋有料化の効果を考えてみます。
 Fig.1 は、経済産業省の石油製品需要想定検討会 燃料油ワーキンググループ により作成された「石油製品需要見通し」から作った図になります。一方、Fig.2 は5月2日のブログに掲載した「ポリエチレン市場に関する調査を実施(2021年)2021/08/24 株式会社矢野経済研究所 プレスリリース」の図を書き改めたものです。いずれの図も縦軸が誇張されています。


 両者を比較すると、いずれもレジ袋有料化が導入された2020年(Fig.1は年度)に、前年比で大きく減少しています。
 株式会社矢野経済研究所では、このポリエチレンの減少(Fig.2)はレジ袋有料化の影響があると分析していました。

 では、2020年度のナフサの減少(前年度比マイナス5.2%)も、主要因はレジ袋有料化なのでしょうか?
 2020年度は、新型コロナ(COVID-19)が世界規模で流行した年になります。COVID-19 により日本でも経済活動の縮小を余儀なくされました。
 それを象徴するような数字が以下になります。
---------------------------------------------------------------------
 ジェット燃料油
 2019年度 5,146 (千KL)
 2020年度 2,733 (千KL) :前年度比マイナス46.9%
---------------------------------------------------------------------
 これも、前述した「石油製品需要見通し」からのデータです。
 渡航が大幅に制限された結果が如実に表れています。

 レジ袋有料化は2020年7月からですから、その効果は丸一年間で計算される2021年のほうがより如実に現れるはずです。
 ところが、Fig.1のナフサでも、Fig.2のポリエチレンでも2021年は前年より増加すると見込まれています。
 したがって、2020年度のナフサの需要減少の主要因は、COVID-19の影響によるものと考えたほうがよいのではないでしょうか。

 そして、2021年(年度)のナフサの需要およびポリエチレンの市場規模の見込から言えることは、レジ袋有料化による地球温暖化抑制効果(CO2削減)は、残念ながら、ほとんどないということです。あったとしても、他所の増加で相殺されてしまい、全体としての効果は無いに等しい、となってしまうようです。

2022年05月23日

レジ袋有料化は地球温暖化抑止に役立つのか

 レジ袋有料化は地球温暖化対策(CO2削減)に役立っているのか? プラスチックの生産は原油全体のわずが3%で、そこからレジ袋に使われた原油を推計すると全体の 0.1% にも満たないことは、4月25日付のブログ「レジ袋有料化は何のため?」でも述べました。
 また、有料化によりレジ袋が全てなくなったわけではありません。新たに石油由来のエコバッグ(マイバッグ)も作られています。したがって、効果としては "焼け石に水" であることは容易に想像がつきます。
 しかし、それでは元も子もないので、プラスチック全体(レジ袋もここに含まれるので)の生産量の推移を調べてみました。レジ袋有料化は2020年7月からはじまったので、その前後のデータを探しました。


 

Fig.1: プラスチックの種類別生産量(https://www.vec.gr.jp/statistics/statistics_4.html)塩ビ工業・環境協会HPより

 これは2020年までのデータです。昨年(2021年)のデータはまだ掲載されていませんでした。

 プラスチック生産量の推移をさらに検索していたところ、画像からレジ袋の原料となるポリエチレン市場に関する調査のサイトを見つけました。以下にその図を示します。


Fig.2: ポリエチレン市場に関する調査を実施(2021年)2021/08/24 株式会社矢野経済研究所 プレスリリース
   https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2771

 ここには2021年(見込み)と2022年(予測)のデータも含まれていました。
 しかも、レジ袋の原料となるポリエチレン(PE)がさらに細分化されています。レジ袋は Fig.2 にあるHDPE(高密度ポリエチレン)に含まれます。
 2020年のHDPE出荷量は前年比93.2%の75万トンでした。
 これはレジ袋有料化の影響であると、株式会社矢野経済研究所では説明しています。
 ということは、レジ袋の原料となる石油の一部の消費が減ったわけですから、レジ袋有料化は地球温暖化抑止に役立っているといえそうです。
 しかし、2021年の出荷見込は75万9千トンと微増し、2022年は76万9千トンとさらに増えるとの予測を示しています。
 となると、レジ袋有料化の地球温暖化抑止効果はたった1年だけということになります。

 また、このデータでは輸入の分が考慮されていない点に注意が必要です。
 株式会社矢野経済研究所によれば、国内レジ袋市場に占める輸入品は7割と見ているメーカーもあるとのことです。したがって、上記に書かれていることは、あくまで国内のHDPE出荷量から考えられることになります。

 さらに、HDPEから作られるのはレジ袋だけではないことにも注意が必要です。
 メーカーはレジ袋で減った分を他の用途で補い、さらに消費拡大へとつなげる努力をしているものと考えられます。株式会社矢野経済研究所でも同様の説明をしていました。

 地球温暖化抑止とはCO2排出削減で、それは石油の消費削減を意味します。
 しかし、上記のデータは、レジ袋を有料化したところで石油製品であるポリエチレンの消費削減効果はたった1年で、その後は逆に増加に転じてしまう可能性を示しています。
 資本主義経済である以上、企業は利益につながる努力をするということです。

 企業の利益を確保しつつ、石油消費削減を実現するには、これらの企業が石油関連製品の販売ではない、環境負荷の少ない製品の販売へとシフトする以外に、SDGs(持続可能な開発目標)を実現するのは難しいのではないでしょうか。

2022年05月02日

レジ袋有料化は何のため?

 「何となく良さそうだから」。そんなイメージだけが先行して「環境保全のため」とされているもののひとつが「レジ袋有料化」ではないでしょうか。

 今の地球温暖化は人間活動による温室効果ガス(CO2など)が主要因、というのは世界の多くの研究者が導き出したもので、科学的なデータを根拠としています(しかし反論もあります)。
 さて、レジ袋からマイバッグに変えることで、本当に地球温暖化抑止に貢献できているのでしょうか?
 地球温暖化が科学的なデータを元にしているのであれば、それを抑止する行動も科学的に適切と言えるのかどうかを考えるべきです。

 日本では2020年7月1日よりレジ袋有料化が始まりました。私自身も含め、多くの国民はこれを義務だと感じていたと思います。ところが義務ではなかったのです。
"レジ袋有料化は義務ではない。単なる「強い推奨」にすぎなかった、政府が答弁"
(https://nikkan-spa.jp/1824369)

 また、有料化の目的は当初、海洋プラスチックゴミの削減でしたが、日本から直接的に海洋に排出しているプラスチックごみは日本で年間生産されるプラスチックごみ全体の0.5%以下
(https://news.livedoor.com/article/detail/18761986/)で、なおかつ、海岸に漂着するプラスチックごみのうち、ポリ袋の占める割合は0.3%(容積比)に過ぎないというのです
(https://www.news-postseven.com/archives/20200715_1578159.html?DETAIL)。

 論理破綻したので、次は「地球温暖化対策(CO2削減)のため」と目的をすり替えました。
 ところが、プラスチック生産に使われる原油は全体のわずが3%です。
 (http://www.pwmi.jp/plastics-recycle20091119/life/life3.html#:~:text=プラスチック生産に使われる,わずか3%(2018年)&text=2018年に消費され,キロリットル※1です。)
そこから、レジ袋に使われた原油を推計すると全体の 0.09% に過ぎません。

 これもまた論理破綻してしまいました。そして、環境省は「国民生活に身近なレジ袋の有料化をきっかけとして、使い捨てのプラスチックに頼った国民のライフスタイル変革を目指していく。」と、またまた目的をすり替えました。

 これもまたまた奇妙です。レジ袋有料化の議論では、最後は焼却さ処分されるものの、使い捨てではなく、家庭のゴミ袋として再利用されている、と言われていました。私の家庭でもゴミ袋として再利用していました。使い捨てしていなかった人の方がもともと多かったかもしれません。

 もともと再利用されていたものを指して「使い捨て」と言ってしまった環境省はいったい何を見ていたのか?日本の官僚は優秀とよく耳にしますが、本当にそうなのか?と疑ってしまいます。

2022年04月25日

食品ロス削減と飢餓撲滅

 日本はカロリーベースの食料自給率が37%(農林水産省「食料需給表(令和2年度)」)と、多くの食料を海外に頼っています。その一方で、食べられるのに捨てられる食品、いわゆる「食品ロス」の量は、年間570万トン(令和元年度推計(農林水産省・環境省))と推計されています。2017年度推計612万トンの廃棄が、国民一人当たり毎日ごはん茶碗一杯分(約132g)とされていた(https://www.no-foodloss.caa.go.jp/nofoodloss-month_anser.html#:~:text=日本の食品ロス量,すると、どのぐらいでしょう。&text=日本の食品ロス量は、2017年度推計で,分に相当します。)ので、令和元(2019)年度では、ごはん茶碗一杯弱といったところでしょう。

 私たちの食品ロスを減らすことで、アフリカなどの飢餓が救えるか?と聞かれた場合、単純に答えるなら"No"になります。しかしながら、食品ロスの削減は、SDGs【目標12】つくる責任 つかう責任、を実行することになります。SDGs的にはアリな行動です。
 家庭における食品ロスの削減は「食べきる量を買う」ことや「食べきれなかった場合は冷凍保存などして後で食べる」など、無駄を省くことになります。
 それにより出費が減るため家計は助かります。一方、各家庭の出費減は国全体の消費減であり、遡って生産量や輸入量が減ることにつながります。これでは、SDGs【目標8】働きがいも 経済成長も、の「経済成長」に逆行してしまいます。

 そこで、私たちが消費しなくなった分の輸入食料を、飢餓で苦しむ人たちのところへ届けられれば、一時的にではありますが、飢餓人口を減らすことに貢献できます。
 輸入するはずだった食料を飢餓で苦しむ人のところへ届けるシステムづくりは、そう簡単ではないかもしれません。しかし、個人単位で考えた場合、各家庭の食品ロス削減で浮いたお金を寄付に回せば、飢餓撲滅への一助になります。これを集団で組織的に行うことが、システムづくりといえるでしょう。
 
 日本は食糧安全保障の面からも、地産地消をもっと促進する必要があります。そして、国として輸入食料の削減を数値で示し、その数値分の食料を飢餓で苦しむ人々のもとへ送るシステムを考えてほしいものです。
 また、こうした試みを国でなくても、市町村単位でできたとしたなら、そのまちはSDGs的に一歩進んだまちとして、日本のみならず世界から注目を集めることになるかもしれません。

2022年04月18日

SDGs【目標2】飢餓をゼロ、を考える

 SDGs(持続可能な開発目標)の【目標2】飢餓をゼロ、は【目標1】貧困をなくそう、や【目標3】すべての人に健康と福祉を、など複数の目標にも関係しています。
 ハンガーマップ2021(https://ja.wfp.org/publications/hankamatsufu2021)には、国別で全人口に占める栄養不足人口の割合が示されています(下図)。 


 これを見ると、いわゆる南北格差が明瞭です。そして、アフリカに飢餓人口が多いことがわかります。
 ではなぜアフリカに飢餓人口が多いのでしょうか?
 https://gooddo.jp/magazine/hunger/africa_hunger/1982/#:~:text=連日の悪天候や異常,しまうことにつながります。
によれば、アフリカの飢餓の原因は異常気象や台風など自然災害による農作物の不作だけでなく、内戦や紛争、教育機会の欠如などにもあるとされています。

 下図(https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol19/index.html)は外務省にあるアフリカ大陸の情勢不安定地域を示した図です。赤色のエリアが情勢が不安定な地域になります。コンゴ東部やソマリアは紛争地域かつ飢餓人口が多い地域になります。


 では、なぜ内戦や紛争が起きるのでしょうか?
 https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Column/ISQ000007/ISQ000007_008.html によれば、イスラーム急進主義とアフリカの国家をめぐる問題があるとしています。
 紛争が続く国々の多くは、汚職や開発の失敗によって政府が信用をなくし、「世直し運動」としてイスラーム急進主義が入り込んでいるということです。
 また、アフリカの国境は植民地時代に民族的まとまりなどが無視された形で欧米列強が線引きしたものです。こうした歴史的背景が国家運営を難しくしているというのです。

 https://www.worldvision.jp/children/poverty_15.html#:~:text=資源をめぐる内戦,なっているのです。
によれば、アフリカの内戦の原因には、
 1. 民族や宗教の違いによる内戦
 2. 資源をめぐる内戦
 3. 代理戦争としての内戦
があるとしています。

 そして、紛争鉱物といわれる問題もあります。
 紛争鉱物(Conflict minerals)とは、アフリカ諸国などの紛争地域で採掘された鉱物資源のことで、米国金融規制改革法(ドッド・フランク法)は、規制対象の鉱物資源を、すず、タンタル、タングステン、金(3TG)の4つの鉱物と定義しています。
(https://sustainablejapan.jp/2017/12/30/conflict-minerals/29965)
 こうした紛争鉱物が資金源となり、内戦が長期化しているということです。
 紛争鉱物の規制は米国やEUなどでなされているものの、内戦が続いている事実から推測すれば抜け道があるのでしょう。

 SDGs【目標2】飢餓をゼロ、ひとつだけ取り上げてみても、その背景は複雑で目標達成は一筋縄でいかないことがわかります。

2022年04月04日

SDGsは実現可能か?

 近年よく目にするSDGs (Sustainable Development Goals) って本当に実現可能なのでしょうか?
 SDGsは「持続可能な開発目標」と訳されています。SDGsは以下に示す17の目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されています。

【目標1】貧困をなくそう
【目標2】飢餓をゼロ
【目標3】すべての人に健康と福祉を
【目標4】質の高い教育をみんなに
【目標5】ジェンダー平等を実現しよう
【目標6】安全な水とトイレを世界中に
【目標7】エネルギーをみんなに そしてクリーンに
【目標8】働きがいも 経済成長も
【目標9】産業と技術革新の基盤をつくろう
【目標10】人や国の不平等をなくそう
【目標11】住み続けられるまちづくりを
【目標12】つくる責任 つかう責任
【目標13】気候変動に具体的な対策を
【目標14】海の豊かさを守ろう
【目標15】陸の豊かさも守ろう
【目標16】平和と公正をすべての人に
【目標17】パートナーシップで目標を達成しよう
 
 SDGs は、国連加盟国全193カ国が2016年から2030年までに達成を目指すものです。
 これらが全て実現した世界は理想郷といえるかもしれません。しかし、残り8年で達成できると本気で考えている人は、世界中探してもどこにもいないのではないでしょうか。

 「持続可能な社会」といって思い浮かぶのは、江戸時代の日本です。江戸時代の庶民の生活は、まさに循環型社会だったといわれています。料理で使った火の灰や人の糞尿さえも、経済循環されていたといいます。ゴミとされるものは、割れて使えなくなったお皿など、修理もできないものだけだったようです。
 しかし、今の世界を江戸時代のような生活にすることに賛成する人はほとんどいないでしょう。

 人や国の不平等がない世界(目標10)って、どんな世界でしょうか?
 全ての国の人々が平均的なアメリカ人の暮らしをすることでしょうか。であるならば、世界中の人々がスマホや車を所持し、ステーキやハンバーガーを自由に食べられる世界です。しかし、大量のエネルギーや資源を消費するアメリカ型の社会が全世界に広まることは非現実的です。
 一方、先進諸国の人々の生活レベル下げ、浮いたエネルギーや資源を発展途上国で使えるようになれば、人や国の不平等がない世界(目標10)が実現するかもしれません。しかしこれもまた、先進諸国の反対で実現しないでしょう。

 そこで、先進諸国の生活レベルを下げずに、なおかつ発展途上国が豊かになれば、不平等がない世界になるとの理屈が思い浮かびます。そしてそれを技術革新で実現しようといった発想です。それがSDGsなのかもしれません。
 しかしそれにも?(クエスチョンマーク)がついてしまいます。
 例えば、LEDランプはそれまでの蛍光灯に比べて、消費電力が少なくかつ長寿命です。SDGsにみあった商品といえます。しかし、省電力だからといって総数が増えたらどうなるでしょうか。いくら一つの消費電力が少なくても、色々な場所で使われて数が増えれば全体の消費電力は大きくなってしまいます。
 昔は限れられた場所でしか見ることができなかった冬の名物イルミネーション。今日では全国各地で見ることができます。そして、それは公共の場のみならず個人宅にまで広がっています。
 人の欲望に歯止めはかけられないようです。

2022年03月29日

川魚はいまだに放射能汚染

 明日で東日本大震災から11年になります。時が経つとどんな惨事も人々の記憶からは薄れていきます。東日本大震災も例外ではありません。
 世論調査にみる震災10年の人々の意識(NHK放送文化研究所, 放送研究と調査, 2021)には、全国および岩手・宮城・福島の被災 3 県で2020年に実施された世論調査の結果が示されています。
 震災の記憶や教訓の風化、被災地に対する関心の薄れを感じている人は、全国・被災 3県ともに8割にものぼりました。震災の風化はこの世論調査からも明らかです。

 しかし、福島第一原発の事故処理は遅々として進んでいないと感じます。
 あまりニュースで取り上げらませんが、淡水魚(川魚など)の放射能汚染は以前続いています。
 海の魚については、広大な海の拡散力もあってか、一部の魚種を除いてセシウムが検出できないレベルにまで下がりました。
 一方、淡水魚は放射能汚染が下げ止まり、アユやイワナなどから基準値を超えるセシウムが検出されることがあります。
 (例えば、https://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/553)
 その理由のひとつとして、森林が汚染されたままなので、そこから流れ出る河川も汚染されたままといわれています。広大な森林を除染(汚染物質の移動)するのは非現実的です。

 原発事故はまったくもって Under Control (何の問題もない)ではありません。

2022年03月10日

ロシアのウクライナ侵攻と日本の核共有議論

 ロシアがウクライナに軍事侵攻しました。そして、ロシア・プーチン大統領は核兵器使用まで匂わせています。
 こうした現状に対して、「日本も核兵器共有を議論すべきだ」といった声が安倍前総理や日本維新の会から上がっています。しかし、非核三原則のある日本では、核兵器は「もたない、つくらない、もちこまない(もちこませない)」ものです。日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)は非核三原則を昭和の価値観と述べたようです。
(https://www.jiji.com/jc/article?k=2022022800933&g=pol)

 実際に軍事侵攻したロシアの脅威だけでなく、日本周辺には北朝鮮や中国の脅威もあります。これら3国とも核兵器保有国です。核の脅威に対しては核で対抗と考えるのはわからなくもありません。一方で、広島と長崎に原爆を落とされた日本として、非核三原則は絶対に守るべきだ、といった意見もわからなくもありません。

 こうした議論をする際に、忘れてならないことがあります。それは「旧敵国条項」です。これは国際連合憲章中にある条項で、第53条、第77条1項b、第107条に規定があります。日本は旧敵国のひとつであり、簡単に言えば、日本の軍事活動をロシアや中国が侵略行為と見なせば、安全保障理事会の許可を必要とせず、日本を攻撃できるものと考えてよいでしょう。
 戦後70年以上が経過した現在でも、この旧敵国条項をはじめ日本が独立国ではないような取り決めが数多く残っています。核共有などの議論の前に、日本にとって不平等な取り決めの解消についての議論が必要かと考えます。

2022年03月01日

二酸化炭素は"悪"といった刷り込み

 地球温暖化の問題が世間に広く浸透してきたことに伴い、その原因とされる二酸化炭素(CO2)を悪者と考える人が多くなっているようです。もう少し正確に言うなら、"二酸化炭素(CO2)排出=悪"といった考え方です。
 大学の講義のなかで、地球温暖化に関して学生に意見を述べてもらったことがあります。ほとんどの学生が、発電に際しCO2を排出するかしないかを、その発電方法の良し悪しの判断基準にしていました。例えば、「原発は発電時にCO2を排出しないからクリーンなエネルギー」といった考え方です。原発推進派による宣伝が国民に浸透していると感じました。
 近づいたら人が数十秒で死んでしまう猛毒(高レベル放射性廃棄物)を生む原発のどこがクリーンなのか?その安全な処分方法も見いだせていないのに、人類は原発を止めようとはしません。また、チェルノブイリや福島第一のように、大事故が発生したなら汚染物質は世界中に拡散します。発電所付近は人が住めない土地になってしまいます。こうした原発のどこがクリーンなのでしょうか?
 "二酸化炭素排出(CO2)=悪" といった刷り込みにより、別の悪者である放射性物質(廃棄物)の存在を忘れてしまいがちです。クリーンかどうかの判断基準はひとつではありません。本当にクリーンな発電を求めるなら、私たちは様々な基準で比較検討して判断すべきです。
 では、太陽光発電や風力エネルギーなどの再生可能エネルギーはクリーンな発電なのでしょうか?
 太陽光や風力は、発電時にCO2を排出しませんし、放射性廃棄物も出てきません。その点ではクリーンといえるかもしれません。しかし、太陽光や風力は発電能力が不安定なため、蓄電池(バッテリー)がどうしても必要になります。そのバッテリーには、いわゆるレアメタル・レアアースが使われます。
 レアメタルやレアアースが、どこでどのようにして採掘・製錬されているのでしょうか?その過程でCO2や他の有害物質はどの程度作られるのでしょうか?本当にクリーンかどうかは、原材料の生成(上流)から発電(中流)、廃棄(下流)まで、全体を通して考えなければ、正しい答えにはたどり着けません。原発の原料となるウランについても、石油や石炭などについても同様です。特に、原料の発掘や製錬といった上流部に関する情報は、ほとんどと言っていいほどマスコミは取り上げていません。

 日本では、官僚などが政治家に忖度して、情報を隠蔽したり改ざんしたり、はたまた破棄したりして、事実を覆い隠してしまいます。
 しかし、地球は忖度してくれません。データを改ざんしてカーボンフリーだ、と主張しても、CO2の濃度が実際に減るわけではありません。事実ベースで考えなければ、問題の解決にたどり着くことはありません。

2022年01月24日

やはり原発はクリーンに非ず

 原発は「危険」だけど「必要」? 福井県内の高校生、同世代調査
 (https://mainichi.jp/articles/20211211/k00/00m/040/209000c)
といったWeb記事がありました。
 福井南高の生徒たちが、福井県内の高校に通う同世代の若者たちが原発にどのような意識を持っているのかを調べるアンケート調査を実施し、その結果が紹介されていました。
 そのなかに、「これまでに学校で学んだ原発関連の項目」(複数回答)を尋ねた結果が示されていました。高かったものは、「福島第1原発事故」64.9%、「原発の仕組み」61.4%、「原発のデメリット」58.0%、「メリット」54.1%でした。
 一方、原発の発電と再処理の過程で生じる「高レベル放射性廃棄物(核のごみ)」については 23.5%、その処分方法となっている「地層処分」については 10.4%と、廃棄物処理など発電が終わった後の段階については、学んだと答える人が少ない結果となりました。

 廃棄物処理といった原子力発電の「下流部」に関することが教えられていないことは確かに問題ですが、「上流部」のことは全く無視されているようです。もしかしたらアンケート調査の選択肢にすら「上流部」のことはなかったのかもしれません。

 原発の上流部とは、ウランが日本に輸入されてくる前のことです。ウラン鉱石は、通常イエローケーキ(ウラン鉱石精製の過程の濾過液から得られるウラン含量の高い粉末)の状態で取引されるので、そこまでの段階をここでは「上流部」とします。
 ウラン鉱石が採掘され、イエローケーキと呼ばれる段階になるまでに現地ではどのような問題が生じているのか、日本ではほとんど報道されないので、学校で教わらなかったとしても無理はありません。しかし、今後も必要不可欠なエネルギー源として原発の是非を考えるなら、CO2排出や高レベル放射性廃棄物の問題だけでなく、鉱石採掘といったライフサイクルのはじまりから考えなければ、誤った答えにたどり着いてしまう恐れがあります。
 ウラン採掘時にも放射性廃棄物が大量に発生していることや、ウラン鉱山周辺の地下水などの環境汚染、鉱山作業員の高い肺がん発症率、危険性を知らされずに働く貧困層、虐げられてきた先住民のことなど、実は原発の上流部には、私たち日本人のほとんどが知らないたくさんの問題があります。
 「イエロー・ケーキ――クリーンなエネルギーという嘘」(Yellow Cake The Dirt Behind Uranium)というドイツのドキュメンタリー映画があります。2010年につくられましたが、日本では限られた場所でしか上映されませんでした。原発の上流部を知れば知るほど、原発がクリーンなエネルギーなどというのは真っ赤な嘘で、社会的立場の弱い人々を犠牲にして得られるエネルギーだということがわかります。

 洋服の分野では、原材料となる綿花について、人権問題のある新疆ウィグル自治区で作られた綿花を使用していたアパレル会社が世間から叩かれたことがありました。原発についても、同様の動きが今後日本で起こることを願っています。

2021年12月13日

EV車の検査を太陽光や風力で賄うには

 前回(2021年11月15日)のブログで、EV車(電気自動車)は、完成時に行われる充放電の検査で、1台につき平均家庭1週間分の電気が(ムダに)消費される、といったお話ししました。また、新車400万台がすべてEV車になったと仮定すると、毎年7.6万世帯1年分の電気がムダに消費される計算になりました。

 では、この平均家庭7.6万世帯の電気を太陽光発電または風力発電で賄うとした場合、どの程度の規模の施設が必要になるかを考えてみたいと思います。
 資源エネルギー庁によれば、100万kW級の原子力発電所が発電する1年分の発電量を太陽光発電で賄う場合、山手線一杯分の面積(約58㎢)が必要になるとあります。風力発電ではその3.4倍(約214㎢)になります。
(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/nuclear/nuclearcost.html)

 電力計画.com によれば、4人世帯が1日に消費する電力量は、およそ13.1kWhとあります。
(https://standard-project.net/energy/statistics/energy-consumption-day.html )
平均家庭をこの4人世帯とした場合、1台につき平均家庭1週間分ですから
 13.1kWh × 7days = 91.7kWh となります。
 また、年間400万台の新車が年中無休で生産されたと仮定した場合、1日平均約10,959台で1時間平均にすると、約457台となります。
 91.7kWh × 457台 = 41,907kWh なので、毎時41,907kWの電力を生産できる発電能力が必要と考えます。
 100万kW級 ÷ 41,907kW = 23.86 → 100万kW級を太陽光発電で賄う場合、約58㎢が必要になるので、41,907kWを生産するためには、
 58㎢ ÷ 23.86 = 2.43㎢ の敷地が必要となります。
 これは、東京ドーム(0.047㎢)51.7個分、皇居(1.42㎢)1.7倍の面積に相当します。
 風力発電では、これらを3.4倍して、東京ドーム約176個分、皇居の約5.8倍の面積が必要ということになります。

 上記はいろいろと仮定を重ねた計算なので、これが正しいとは言い切れませんが、太陽光発電や風力発電でEV車充放電検査に必要な電力を生産するだけでも、かなりの規模の施設が必要になるようです。

2021年11月22日

EV車完成時の充放電の検査

 自動車業界では欧州を中心に、ガソリンエンジンと電気モーターで動くハイブリッド車も含め、ガソリン車を廃止してEV車(電気自動車)しようといった流れになっています。このEV車促進がCO2削減のためというのは建前であって、実はハイブリッド車でトヨタに敵わない欧州の自動車業界がトヨタを締め出すために仕組んだものだ、といった声もあります。そうした政略的な話とは別に、EV車が抱える問題点について考えてみたいと思います。

 豊田章男(トヨタ)社長は、全面EV移行に賛同するものの、それには色々と懸念材料があることも述べています(https://www.youtube.com/watch?v=6zoznlVU0VU)。
 そのなかに、EV車の完成時に行われる充放電の検査で、1台につき平均家庭1週間分の電気が(ムダに)消費される、といった話がありました。ということは、1年は52週または53週なのでその間をとって、52.5台で平均家庭1年分の電気が(ムダに)消費されることになります。また、日本の乗用車の年間販売台数を400万台とすると、
 400万台÷52.5台=7.6万台→1年間で平均家庭7.6万世帯1年分の電気がムダに消費されることになります。
 7.6万世帯とは、だいたい何万人規模のまちになるのでしょうか?総務省の資料によりますと、千葉市花見川区が約7.6万世帯で人口は約17.7万人とあります。
(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/17216_1.html)

 平均家庭というものが、どのような定義なのかが不明ではありますが、おおよそ人口規模が17万〜18万人のまちが1年間に消費する電力が、充放電の検査だけに使われてしまうことになると考えることができるでしょう。
 自動車をすべてEV車(電気自動車)にするということは、これだけ多くの電力を余計に消費するということでもあるわけです。

2021年11月15日

地球からの搾取とは?

 11月1日から12日までの予定で、COP26(気候変動に関する国際会議)がイギリスのグラスゴーで開催されています。
 環境活動家として有名なスウェーデンのグレタ・トゥンベリさんがデモに参加し「人々や自然、そして地球からの搾取はもうたくさんだ。搾取をやめろ。ああだ、こうだ言うのはやめろ」と訴えたとのニュースがありました。
 人々、特に発展途上国の人々からの搾取は理解できました。しかしながら、地球からの搾取はわかりませんでした。
 搾取とは、一般的に乏しいものを無理にとること、とあります。グレタさんの発言が正しく翻訳されていたとしたら、「地球からの搾取」といった言い方は正しくないと考えます。「地球資源の浪費」ぐらいならわかります。

 約46億年といわれる地球の歴史をざっと見てみると、地球表面がマグマで覆われていた状態から冷え固まって、様々な鉱物からなる岩石(大地)ができました。海ができて、生命が誕生し進化していきました。その過程で一部の生命の死骸は、石炭や石油などに形を変えていきました。さらに、地球上の鉱物や石炭・石油などを利用する生命体(人類)が出現しました。
 あまりにもザックリとした振り返りではありますが、人類が石炭や石油といった化石燃料を使って発展してきたことは、地球の歴史を考えると自然な流れだと感じてしまいます。地球は人類のために様々な天然資源を用意してあげた、と考えることもできます。もし、地球に意識があったとしたなら、現状を人類に搾取されたなどとは思わないでしょう。何せ46億歳も生き続けているわけですから。

 搾取といったキーワードからは、特に発展途上国の人々からの搾取について、先進国がしてきたこと、そして今もしていることの事実を知ることが重要だと考えます。

2021年11月08日

自民は勝利、立民は敗北

 昨日(10月31日)投開票の衆議院選挙の結果が出ました。自民党は議席を減らしたものの単独過半数を確保しました。一方、野党第一党の立憲民主党は野党共闘による候補者の一本化を図ったにも関わらず、改選前より議席を減らしました。敗北といっていいでしょう。共闘した日本共産党も議席を減らしました。そして、日本維新の会は約4倍増の大躍進でした。また、立憲民主党と袂を分かった国民民主党も議席を増やしました。

 この結果を自分なりに考えますと、国民の民意は、与党自民党批判の気持ちはあるものの、だからといって野党の立憲民主党に政権が担えるとは思えない。だから、"よ"党でも"や"党でもない、"ゆ"党といわれた維新へ票が流れたのではないでしょうか。それは、国民民主党が議席を伸ばしたことにも表れていると思います。
 結党時にはそれなりに期待を持たれていた立憲民主党ですが、ここ数年は自分たちが議員であることが優先の政党にしか感じられませんでした。単なる数合わせにしかみえない今回の共産党との共闘も「保身」第一優先と映りました。

 自民党の問題先送りで現在になってしまった少子化と高齢化による人口減少社会で、これからこの国をどのような国にするのか?また、2040年前後に発生か?ともいわれている南海トラフの巨大地震と、その前後に発生するかもしれない首都直下地震や富士山噴火など、東日本大震災を上回る国難にどう立ち向かうのか?
 与党を批判するだけの野党はごく一部で十分です。与党案がダメなら我々が、と前向きな野党が育つことを願っています。

2021年11月01日

人口減少が争点にならない総選挙

 今度の日曜日(10月31日)は衆議院選挙の投票日です。
 ホームページからダウンロードできる各党の主張を眺めてみますと、ほとんどの政党が新型コロナ対策が第一に上がっています。これは仕方ないとしても、正面から人口減少の問題に取り組む姿勢が見られた政党は、残念ながらありませんでした。この問題は私たち有権者の関心も低く、選挙の争点にはなっていません。

 人口減少(これは少子化と高齢化によるもの)の影響は、これから年を追うごとに顕在化していきます。すでに少子化による小中高等学校の合併は各地で進行しています。また、介護現場などでの労働人口の減少から、外国人労働者を受け入れるようになっています。
 今後移民を大量に受け入れて、労働人口を補う国にするのか?それとも移民による様々な問題を考えるなら、移民を受け入れない国にするのか?これは非常に大きな問題です。一方、そうした移民の是非以前に、国力が衰退し続けている日本には、今後移住を希望する人がいなくなる、といった声もあります。

 防災についても、消防団員の定員割れは各地ですでに顕在化しています。例えば、神奈川県川崎市では2020年8月1日時点で、市内8つの消防団全てが定員割れとのことです
(https://www.townnews.co.jp/0204/2020/08/21/539148.html)。
 国土強靭化といった考え方は、国民の命を守ることを考えれば当然のことといえます。しかし、防災を考えて様々な整備を行ったとしても、それを維持していかなければ、いざ災害が起きた時に正常に機能しない可能性があります。そうした維持管理をするにも人が必要です。


 もう10年以上前のことになりますが、市議会議員をしていたときに、少子化と高齢化による人口減少社会を生き抜くためのまちづくりを政策に掲げたことがあります。しかしながら市民の反応は今ひとつでした。
 この問題が世間の関心を集め、マスコミでも毎日のように取り上げられるようになったときは、すでに日本の衰退が止まらなくなってしまったときなのかもしれません。

2021年10月25日

温暖化と二酸化炭素

 前回(9月21日)のブログでIPCCによる「人間が地球の気候を温暖化させてきたことに "疑う余地がない"」といった報告の話をしました。
 地球温暖化の主な原因としてあげられるのが温室効果ガス、特に二酸化炭素(CO2)です。図1は過去42万年間の二酸化炭素濃度(緑)と世界の気温(赤)と海水面のレベル(青)の変動を示したものです。

図1
https://johnenglander.net/420000-years-temp-co2-and-sea-level-what-coincidence/

 これを見ると、二酸化炭素と気温との間には高い正の相関があるようです。しかし、近年に限っていうと、二酸化炭素濃度の急激な上昇に気温の上昇が追いついていないように見えます(赤丸で示したところ)。

 図2上は、過去1万年間の二酸化炭素濃度の変動を示しています。近年の急激な上昇がここでも見られます。これと気温の変動とを比較してみます。図2下は1961~1990年平均値からの気温の偏差を表しています。近年の急激な上昇は二酸化炭素と同じですが、過去1万年前から4,000年前ぐらいの間は平均値よりも気温が高かい状態でした。

図2(下図の赤縦線が1万年前)
上)https://shigurechan.com/nature/the-rise-of-co2-concentration-is-the-highest-in-history
下)https://wired.jp/2013/03/12/hockey-stick/

 比較のため、別の過去の気温変化を示します(図3)。この図は図2下ほど過去1万年前〜4000年前ぐらいの高温が顕著ではありませんが、やはり現在よりは高温だったことを示しています。

図3(図中の赤縦線が1万年前)
https://ja.wikipedia.org/wiki/過去の気温変化

 しかし、図2上の二酸化炭素には、これに対応する過去1万年前〜4000年前ぐらいの高濃度の変動が見られません。過去42万年間では見られた二酸化炭素と気温の相関が、過去1万年間では見られません。図2は図1はの横軸(時間)を単純に拡大したものではありません(別データ)が、対象とする時間幅を変えると二酸化炭素と気温との関係が違って見えてきます。

 地球を温暖化させる原因は二酸化炭素による温室効果だけではありません。二酸化炭素の排出を削減できれば現在の温暖化問題が解決する、と考えるのは問題がありそうです。

2021年09月27日

現在の温暖化は人間によるもの「疑う余地がない」

 先月の9日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、人間が地球の気候を温暖化させてきたことに「疑う余地がない」とする報告を公表しました。
 地球温暖化の原因が人間活動にあるといったことを、これまでにない断定的な表現を使ったとして注目されました。

 これに反応してなのか、同月17日には「気候危機説「不都合なデータ」は隠蔽 地球温暖化で災害の激甚化など起きていない、モデル予測に問題あり」といったWebニュースが「夕刊フジ」から配信されました。ただし、この記事の元は今回の IPCC の発表以前のものになります。
https://web-willmagazine.com/energy-environment/80fKL(Daily WiLL Online)
https://cigs.canon/article/20210420_5752.html(キャノングローバル戦略研究所)

 さて、この記事を誰(どこ)が配信したのか?といった視点からまずは見てみます。
 Daily Will Online は WiLL という雑誌のオンライン記事です。そして、17日に同じ内容を配信したのは「夕刊フジ」です。いずれも右寄りといわれているメディアになります。世間に広がっている地球温暖化の考えに反する考え方は、もしかしたら右寄りのメディアが好む内容なのかもしれません。

 記事の内容についてはどうでしょうか?
 この記事では、「災害は「激甚化」していない」として、台風のデータを取り上げています(図1)。

図1  気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018より

 この図は、「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~」2018年2月 環境省 文部科学省 農林水産省 国土交通省 気象庁 から引用したものです。
 確かに、台風は増えてもいませんし強くもなっていません。しかし、同レポートには以下のようなデータも掲載されています。

図2 気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018より

 この図は、日本における1901~2016年の月平均気温の各月における異常高温と異常低温の年間出現数になります。異常高温の出現数が増加する一方で、異常低温の出現数が減少している傾向がみられます。こうしたデータは、どちらかといえば温暖化を支持するデータですが、「気候危機説「不都合なデータ」は隠蔽・・・」では触れていません。

 また、記事のリードでは「災害は「激甚化」していない」とあります。気候による災害は台風だけではないのに、台風のみのデータを示して自らの主張の正しさの根拠としています。自説に都合のよい根拠だけを取り上げて、こじつけることをチェリーピッキングといいます。
 では、災害は「激甚化」しているのでしょうか、それともしていないのでしょうか?
 図3は再保険大手のスイス再保険による世界全体の自然災害の経済的被害額の推移を示しています。全体的に増加傾向がみられなくもありません。ただし、このデータには地震による被害も含まれています。

図3 http://rief-jp.org/ct2/68757

 次に、図4をご覧ください。自然災害による死者数が災害別に示されています。気象に関係するものとしては、上から2番目青色の Drought(干ばつ)、上から5番目緑色の Extream tempareture (異常高温や異常低温)、下から3番目黄色の Flood(洪水)あたりになるでしょう。

図4 https://ourworldindata.org/natural-disasters

 いずれも近年増加している傾向は見られません。むしろ、Drought(干ばつ)や Flood(洪水)では死者数が以前よりも減っています。死者数から見た場合、気象災害による「激甚化」は見られません。

 ただし、災害によるダメージは防災対策を進めることで小さくすることができます。近年、たくさんの死者を出さなくなった理由として、防災対策が進んだ可能性も考えられます。災害の「激甚化」を考える際は、何を持って「激甚化」といえるのか?といった言葉の定義をしっかりと決める必要があります。

2021年09月21日

また、だまされるかもしれない次の総選挙

 今回は、防災や地球科学などとは直接関係がありませんが、政治のホットな話題を取り上げたいと思います。
 現在の衆議院の任期満了は10月21日で、その前に9月29日投開票の自民党総裁選挙があります。
 昨日9月3日、菅義偉首相が退任の意向を示しました。これにより、少なくとも総選挙前に自民党総裁の交代、内閣総理大臣の交代が確定しました。自らの保身しか考えていない一部の自民党議員にとっては、新首相・新内閣というご祝儀相場で選挙に臨めると喜んでいるかもしれません。

 菅内閣のもとでの選挙であれば敵失で有利とみていた野党も慌てていることでしょう。立憲民主党の枝野幸男党首は菅首相の退任を「無責任」と批判しました。また批判か、と思った人も少なくないのではないでしょうか。この場合、菅首相が「コロナ対策に専念」と言ったのですから、「では明日にでも国会を開きましょう」ぐらいのことが言えないものか?と思ってしまいました。

 来たる総選挙で、新内閣への期待感・ご祝儀相場の気持ちをそのまま投票に持ち込んだら、嘘や隠蔽、改ざん、お友達優遇、国会軽視といったこれまでの政治が続くことになるでしょう。「国民なんか簡単にだませる」と、ますます国民不在の政治が加速してしまいます。
 「新型コロナ対策は誰がやっても批判される」と、安倍・菅政権を擁護する声もありますが、台湾やニュージーランドなどのように、国民から支持された政府もあります(ただし支持は流動的です)。ザルの水際対策、初動の遅れ、アベノマスク、五輪優遇の特例など、安倍・菅政権による対策は総じて国民に支持されませんでした。
 その間、自民・公明の議員たちはいったい何をしていたのでしょう?安倍・菅政権の失政に不満を抱く国民の声を、一体誰が代弁して政権を批判し、軌道修正を進言したのでしょうか?「政権批判しようものなら次期選挙で公認がもらえない」などと、自らの保身しか考えていない議員が山ほどいたのではないでしょうか?
 自分の選挙区の自民党または公明党議員が、この一年半余どれだけ自分たちの声を聞いて動いてくれたのか?そのことを決して忘れないで欲しいと思っています。

 では、野党はどうでしょう?野党議員も同じく自分の保身しか考えていないとしか思えません。仮に現政権に取って代わるつもりがあるなら、部分的でもいいですから影の内閣をつくって、現政権とは違う国民に期待を抱かせるような新型コロナ対策や経済対策などを逐次アピールすべきです(国民民主党は10万円給付をいち早く訴えていました)。ところが現実は、特に野党第一党の立憲民主党は、現政権への批判ばかりが目立っていて、政権奪取の本気さが全く伝わってきません。
 与党が支持を下げても支持率が上がらない今の立憲民主党は、まさに自公政権の最大のアシスト勢力です。
 国民が欲しているのは政権批判だけではなく、自公政権に取って代わることができる、対案を示す政権奪取に本気の野党の存在です。かつての民主党がそうでした。しかしながら、政党としての未熟さや個々人の能力の問題などから、国民の期待は失望へと変わりました。
 このことをもって一部の自民党の支持者などからは、しばしば「悪夢の民主党政権」といった言葉が出てきます。しかし、民主党政権は東日本大震災のときにちゃんと国会を開いていました。一方、安倍・菅政権は憲法違反であるにも関わらず、野党の求めに応じて臨時国会を開きませんでした。民主党のほうがまだマシでした。コロナ禍の安倍・菅政権は「悪夢が正夢になった自公政権」です。


 次の総選挙は菅内閣に対する国民の審判ではなくなりました。新内閣にご祝儀相場はつきものですが、今回ばかりはそのことは横に置いて、安倍・菅政権のコロナ対策を支持した自公政権(自民党・公明党議員)への審判と考えて欲しいです。
 とはいっても、今の野党に期待が持てないのも事実です。自公過半数割れまで追い込むことすらできないかもしれません。しかし、それでは今までと何も変わりません。首相の顔がかわっても結局中身は同じ。嘘、隠蔽、改ざん、お友達優遇、国会軽視などが続くことになります。ただし、これまでの嘘、隠蔽、改ざんを白日の下にさらし、責任を追及できるなら話は別です。
 新首相・新内閣を支持するとは、安倍・菅政権を批判してこなかった自民党・公明党議員を支持することを意味します。しかしながら、その時の雰囲気(空気)に流されてご祝儀相場になる可能性のほうが、現時点では高いとみています。(残念!)

2021年09月04日

東京五輪、CO2排出実質ゼロ "実質"って何?

 あまり知られていないかもしれませんが、東京五輪・パラリンピックでは、大会開催によって生じる二酸化炭素(CO2)の排出量を「排出量取引制度」を利用して、"実質" ゼロにするとのことです。そして、東京オリ・パラの開催で発生するCO2は東京都と埼玉県が無償で引き受けるとのことです(https://nordot.app/773485200627613696?c=39546741839462401)。

 これって何の意味があるのでしょうか?ここでいう "実質" とは、インチキとしか解釈できません。このCO2は、東京オリ・パラがなければ、そもそも発生することがなかったわけです。それを取引によって"実質"ゼロにするって、少なくとも私にはペテンとしか思えません。

 もし、人類が本当にCO2の発生を抑制したいと考えていたのであれば、「排出量取引制度」などという発想そのものがなかったでしょう。新型コロナが示したように、自然界は人間に対して忖度(そんたく)してはくれません。排出量取引などという "まやかし" は自然界にとっては何も意味がありません。 

 では、どうすれば良いか?最も直接的な方法は、人間の活動(主に経済活動)の抑制でしょう。

 下図は日本の発電電力量の推移を示しています。仮に現在の発電量を1975年頃(4,000億kWh)と同程度に抑えられたとしたら、現在の半分以下になります。それだけでも相当量のCO2発生を抑制できます。しかし、この発想は非現実的と一蹴されるでしょう。

(https://www.nippon.com/ja/features/h00006/ から引用)

 

 今の発電量を自然エネルギー等で賄うといった発想ではなく、かなり思い切って発電量そのものを抑制する生活様式の変化を考えないと、SDGs が掲げる「持続可能な発展」は難しいのではないか、と思っています。

2021年08月02日

東京五輪と自然災害

 大型の台風8号が、明日27日(火)頃に関東から東北地方に接近し上陸するおそれがあるとのことです。今、東京五輪が開催されていますが、一部競技の進行に影響が出るかもしれません。その程度だったら大したことありませんが、仮に競技場の近隣で大きな被害が出た場合の対応は大丈夫なのか、心配になってしまいます。

 菅義偉首相は、官房長官のときから「仮定の質問には答えない」、「仮定のことは考えない」が口癖でした。仮定のことを考えてそれに備えるのが防災です。菅さんが首相になってからも同様の発言をする姿を見てみて、「信じられない」と感じた人は少なくないのではないでしょうか。

 また、今年1月のテレビ朝日「報道ステーション」で、菅義偉首相の録画インタビューが放映されました。たまたまこれを観ていた私は、2週間前「静かな年末年始を」と呼びかけた時期に、感染者2000人は想像できたかと聞かれ、「いや、想像はしてませんでした」と応えた菅首相に唖然(あぜん)としてしまいました。「最悪の事態を想定してそれに備える」などという発想そのものが、残念ながらこの方にはできないのだと感じました。付け加えて言うなら、これは録画だったのですから、首相の周りの人が「これはまずい」と気付いてカットすべき内容だったでしょう。それすらできなかったのが、ある意味この国の危機管理意識のレベルということになります。

 東京オリ・パラ開催中に、もし、首都直下地震が発生したら?富士山が噴火したら?江戸川が氾濫したら?そうした仮定の事態に備えて、被害を最小限に食い止める準備はできているのか?菅義偉首相に加えてグダグダな五輪組織委員会、心配になってしまいます。

2021年07月26日

熱海土石流災害、太陽光パネルで思い出した鬼怒川の水害

 7月3日に発生した静岡県熱海市伊豆山(いずさん)の土石流災害は、違法な盛り土が原因ではないかともいわれています。また、崩落現場近くの尾根沿いに設置された太陽光パネルの影響を指摘する声もあります。

 この災害を受けて、小泉進次郎環境大臣は山林開発などで災害を招く恐れのある太陽光発電所の立地規制を検討する考えを示しました。「太陽光パネル」「災害」の2つのワードで、私は鬼怒川の水害を思い出しました。

 2015年9月10日、台風18号の影響による豪雨で、茨城県常総市では鬼怒川の堤防決壊や越水(堤防を越えて川の水が溢れる)被害がありました。そのうちのひとつ、若宮戸地区では太陽光発電所が川沿いに設置され、丘陵部(自然堤防)の一部が掘削されていました。この掘削された状態を放置したことが越水を引き起こしたのではないか?と問題になりました。

 ただし、これには事実誤認があると、後日河川を管理する国土交通省が記者発表をしています(国土交通省関東地方整備局, 記者発表資料: 鬼怒川左岸 25.35k付近(常総市若宮戸地先)に係る報道について, 2015, https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000632481.pdf)。この土地は太陽光発電事業者の民有地だったため、土地を借用して災害が起きる2ヶ月前の7月に、掘削前の高さになるよう大型の土のうを設置した、ということです。

 また、関東地方整備局,『鬼怒川の概要』及び 『平成27年9月関東・東北豪雨』について
(https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000686491.pdf)によれば、仮に掘削前の太陽光パネルがない状態だったとしても越水していた可能性が示唆されています。下の写真はこの報告書44ページにある問題となった自然堤防の変遷の様子を示しています。1947年(左上の写真)にはあった木々に覆われた自然堤防が、1980年(右上の写真)にはすでに大きく削り取られています。

『鬼怒川の概要』及び 『平成27年9月関東・東北豪雨』について より

 坂本他 (2017)「2015年鬼怒川水害における被災 地初動応答の調査・分析」によれば、1964年の東京オリンピックや1985年のつくば万博の際に、この自然堤防が削られその砂が使われたとのことです。また、削り取られる前の自然堤防は、もっと高かったようです。どうやら、太陽光発電所ができるだいぶ前の開発行為による影響も考える必要があるようです。

 先日、偶然聴いていたラジオ番組で熱海の土石流災害を取り上げた際、ある大学教員が環境省の太陽光発電所の立地規制について、鬼怒川の水害のときにやるべきだった、と話していました。熱海の土石流でも鬼怒川の水害でも、目立つ存在だった太陽光パネルが悪者として取り上げられた感があります。もちろん、影響が全くなかったとまでは言えないでしょうが、いずれのケースでも主たる原因は別にある可能性があります。熱海の土石流では盛り土、しかも違法な盛り土(産業廃棄物も含まれていた可能性も報道されています)が主たる原因かもしれません。(ただし、今後の調査結果を待つ必要があります。)また、2015年の鬼怒川の水害では、長年にわたる開発行為まで考慮する必要があるようです。

 今回の熱海の災害では、崩壊した土地の現所有者は盛り土だったことを知らなかったと報道されています。開発が長年にわたって行われると、その行為者や所有者などが移りかわることはよくあります。災害の原因調査では、過去に遡って調べなければならない場合があります。そうした理由からも行政が記録を残すことは大変重要になります。

2021年07月12日

世論調査で世論操作(メディアリテラシーの視点から)

 世論調査は本来、基本的な国民意識の動向を捉えるために行われるもののはずです。ところが、設問のしかたや順番、選択肢の内容などによって結果が大きく左右されることがあります。
 ここでは、結果が左右されたと考えられる事例として、NHKによる東京オリ・パラ開催に関する世論調査を見てみましょう。

 下の図は、2021年夏のオリ・パラ開催について、2020年10月から2021年5月までの月ごと(2020年11月は未実施)のNHK世論調査の結果を示したものです。(NHK選挙WEB世論調査より作成:https://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/archive/2021_05.html など)

 2021年1月までの調査では、「開催すべき」「中止すべき」「さらに延期すべき」「わからない」の4つの選択肢でした。ところが2021年2月以降は「さらに延期すべき」の選択肢がなくなり、代わって「開催すべき」の選択肢が「これまでと同様に行う」「観客の数を制限して行う」「無観客で行う」の3つに細分化されました。

 この調査の結果を、2021年夏の開催について賛成か反対かで色分けした場合、2021年1月調査では「賛成」約16%、「反対」約77%となります(「延期」も2021年夏の開催には反対だからです)。ところが、2021年2月調査では「賛成」約55%、「反対」約38%となり、賛成が反対を上回ります。

 「さらに延期」と考える人は、中止は望んでいないわけだから、「中止」を選ぶよりは、消極的な賛成意見の「観客の数を制限して行う」、または「無観客で行う」のいずれかを選ぶことが予想されます。このようにして、世論調査は調査する側の意図に沿った結果になるように操作することが可能なわけです。

 NHKのホームページに示された質問の仕方は、2021年1月の調査では「ことしに延期され夏の開幕に向け準備が進められている東京オリンピック・パラリンピックについて聞いたところ、」とありました。これが、2021年2月には「東京オリンピック・パラリンピックの開幕まで半年を切りました。IOC=国際オリンピック委員会などは、開催を前提に準備を進めています。どのような形で開催すべきだと思うか聞いたところ、」となっていました。

 「どのような形で開催すべきだと思うか」、今夏の開催は”決定事項”として質問をはじめています。そして「さらに延期すべき」の選択肢をなくし、「観客の数を制限して行う」と「無観客で行う」といった消極的な賛成意見を選択肢に加えました。質問のなかで今夏の開催を既成事実化し、さらに「延期」の選択肢をなくして、延期を考えていた人たちを消極的な賛成意見へと誘導した、といった疑念が拭えません。

 2021年1月と2月の結果を比較すると、「中止」はいずれも約38%です。となると、「延長」意見だった人たちの大半が、「観客の数を制限して行う」もしくは「無観客で行う」に流れた、と考えるのが自然でしょう。

 さて、放送については、放送法というものがあります。その第4条に
 二 政治的に公平であること。
 四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
があります。

 意見が対立していた東京オリ・パラについて、「延期」の選択肢を消した行為は、放送法第4条の四に反するのではないでしょうか。「延期」の意見を無視したわけですから、「できるだけ多くの角度から」に逆行しています。さらに、政府が推し進める「開催」の選択肢を1つから3つに増やした行為は、政治的な公平性について疑念を抱かせます。
 公共放送であるはずのNHKが、政権への忖度を疑われるような世論調査を行い、それを放送したと思われても仕方ないでしょう(NHKには問題が多すぎます)。

 NHKが行ったこの世論調査は、まさに、質問の仕方と選択肢の内容によって結果が左右された事例といえます。情報を受け取る側の私たち一般市民は、公共放送であるはずのNHKですら、こうした世論操作まがいのことをするのだ、という意識をもって、毎日のニュースに接する必要があります。

2021年07月05日

原発はCO2削減に本当に役立つのか?

 原発推進派は、発電時に二酸化炭素(CO2)を生成しないから、地球温暖化抑制のためにも原発は必要だ、と主張します。今回はもっともらしく聞こえるこのロジックが本当に正しいのか?過去のデータを用いて検証してみます。
 最初に結論を述べますと、「原発の推進はCO2削減に役立っていなかった」になります。

 使用するデータは以下になります。
・原発の発電量:資源エネルギー庁のHPより【第214-1-6】発電電力量の推移
 https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2019html/2-1-4.html
・CO2排出量:全国地球温暖化防止活動推進センターのHPより
 https://www.jccca.org/download/13332

図1

 図1は1990年から2017年まで(27年間)の日本の原発発電量とCO2排出量の推移を示しています。縦軸は原発発電量 [億KWh] と CO2排出量[百万トン] の数字をそろえて表示しています。原発発電量は1998年までは毎年増加し、その後増減を繰り返し、2011年に急激に減少しています。これは東日本大震災の影響です。2014年にゼロになってから以降は毎年増えています。一方のCO2は、全期間(1990年から2017年まで)でほぼ横ばいです。この図から考えるなら、原発発電量とCO2排出量とのあいだに何ら関係はなさそうです。

図2

 図2はCO2排出量の増減がもっとわかるように、縦軸を拡大したものです。このようにすると、原発発電量とCO2排出量との関係性が考えやすくなります。原発発電量は前述した通り、東日本大震災のあった2011年とその翌年に急激に減少しています。一方、CO2は原発発電量が急減する前の年である2010年から増加に転じています。
 CO2は2008年と2009年に大きく減少しています。このとき何があったのでしょうか?2008年9月に米国でリーマン・ショックが発生し、その影響で世界経済は深刻な景気後退に陥りました。このCO2排出量の減少時期は、景気後退による経済活動の縮小が影響していたのかもしれません。CO2排出量の増減を考える際は、経済活動といった要素も考慮する必要があるようです。

図3

 図3は図2の最初と最後にグレーの網掛けをしたものです。ここからはデータリテラシーにも関連してきます。
 まず、(B)をみてください。原発発電量の増加に伴い、CO2排出量が減少しています。原発推進派はこの部分を切り取って、「原発の推進はCO2削減に効果的」と主張するかもしれません。このように、自説に有利なデータだけを切り取って示すことをチェリーピッキングといいます。

 次に、(A)の部分をみてください。CO2排出量は多少の増減があるものの、この期間(1990年から2000年)は、原発発電量の増加に伴いCO2排出量も増加しています。この期間の相関係数を計算すると 0.84 になります。

 相関係数とは、2つの異なるデータ間の直線的な関係の強さを表すものです。ここでは原発発電量とCO2排出量の2つです。相関係数は -1 から 1 の間の数値で示されます。一般的に0.7 以上だと「強い正の相関がある」とされます。(一方が増えれば、もう一方も増えるということ。)

 この場合、0.84ですから、「原発発電量とCO2排出量との間には強い正の相関がある」ことになります。言い換えるなら「原発発電量が増加すると、CO2排出量も増加する」ことになり、原発の推進がCO2削減に役立っていなかったことを示しています。

 ただし、あくまで1990年から2000年の10年間に限ったことです。また、相関があるからといって因果関係があるとは限りません。その点も注意が必要です。

 では、図に示した全期間(1990年から2017年)の相関係数はどうなるでしょうか。相関係数は -0.04 となり、両者はほぼ無相関(相関がない)といえます。

 以上、過去のデータにより検証した結果、「原発の推進はCO2削減に結びついていなかった」ことになります。

2021年06月28日

避難情報が改定

 令和3年5月20日から、大雨等で出される避難情報が改定されました。今まで「避難勧告」と「避難指示」の違いがわかりにくいといわれていました。今回の改定で「避難勧告」が廃止され、避難指示で必ず避難!となりました。

http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinanjouhou/r3_hinanjouhou_guideline/pdf/poster.pdf


 避難情報に関わる文言は一般市民にとってわかりにくいものが少なくありません。今回廃止された避難勧告以外にも、例えば、避難所と避難場所、いずれも避難する場所ですが、違うものになります。避難所は、災害等で自宅で過ごすことが危険な場合に、行政から提供される学校の体育館や公民館などの居住場所になります。一方、避難場所は、地震などで火災が発生したときなどの際に一時的に避難する場所になります。一般的には、大規模な公園や緑地などが指定されています。 さて、実際に災害に見舞われたとき、その状況を判断して避難所と避難場所をうまく選択できるでしょうか。まずは、自分が住んでいる(または仕事している)地域の避難場所と避難所を確認することから始めましょう。

2021年05月21日

SDGsにかこつけた原発復権

 SDGs (Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標) といった言葉を最近よく見かけるようになりました。地球温暖化問題については、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出規制が取り上げられています。4月22日、菅総理は新たな気候変動対策目標を公表し、日本は2030年時点で2013年度比46%の温室効果ガス削減を目指すことになりました。

 二酸化炭素排出削減にかこつけて原子力発電の復権を狙っている人たちがいます。4月12日、原発の新増設や建て替えを推進する自民党議員連盟の設立総会が開かれ、安倍晋三前首相がその顧問に就きました。

 福島第一原発の事故によりその安全神話は崩壊し、東日本大震災以降、世論は脱原発へと大きく傾きました。しかし、SDGsにかこつけてその復権を画策していた人たちが公然と原発推進を打ち出してきました。

 原発は発電時に二酸化炭素を排出しないことでクリーンなエネルギーのイメージを我々は長年マスコミの報道や政府広報などで見聞きしてきました。しかし、原発は二酸化炭素よりはるかに猛毒な高レベル放射性廃棄物を生み出します。人が近づくと20秒ほどで死んでしまうほどです。その処分方法についてはいまだに解決されていません。フィンランドでは地下深くに埋めてしまう地層処分を推し進めています。日本も同様に地層処分を検討していますが、日本はフィンランドとは地層環境が全く異なります。フィンランドは地震や火山活動がほとんどありません。一方日本は、地震や火山活動が活発です。また、地下水も豊富にあります。同じ土俵で考えることはできません。

 これ以上、原発を推し進めて高レベル放射性廃棄物を増やすことは、SDGsに沿っているとは思えません。この議連の動きは今後も注視する必要があります。

2021年05月07日