電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (1)
電気自動車(EV: Electric Vehicle)で後塵を拝していた日本企業も今、その開発に力を入れています。
脱炭素やカーボンニュートラルが叫ばれ、世界(特にヨーロッパ)の自動車市場からはガソリン車だけでなく、ハイブリッド車まで締め出されてしまおうとされています。
こうした動きは、SDGs や地球温暖化にかこつけた金儲け(覇権争い)と考えると、いろいろ納得のいくことが多いのですが、そのことはさておき、電気自動車はSDGs的にアリといえるのか?を考えてみます。
過日、脱炭素を取り上げていたNHKの番組のなかで、ある子供がその解決法として電気自動車の普及をあげていました。ガソリン車がなくなって電気自動車になれば明るい未来が待っている、と思わされている人は多いのではないでしょうか。
かく言う私も、最近まで何となくいいのかな?と思っていました。ところが色々調べてみると、本当に環境に良いのか?と疑念を抱くようになってしまいました。
EV に限らず製品やサービスの本当の二酸化炭素(CO2)排出量を見積もるには、使用時だけでなく、原料の採掘や加工から輸送、製造、廃棄(リサイクル)に至るまで全般に渡る総排出量で考えなければなりません。使用時もそれ以外のときでもCO2であることに変わりありません。
仮に、使用時のCO2排出量が少なかったとしても、製造時等で大量に排出していたなら、それも大きな環境負荷となります。
こうした「揺り籠から墓場まで」でのライフサイクル全体で、環境負荷を定量的に評価する方法がライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle
Assessment)になります。
EV とガソリン車のCO2排出量を比較するには、使用時のみで考えるのではなく、このLCAによる評価が適切です。
Mark Mills, 2021, The tough calculus of emissions and the future of EVs,
From materials and batteries to manufacturing, calculating the real carbon
cost of EVs is just getting started (https://techcrunch.com/2021/08/22/the-tough-calculus-of-emissions-and-the-future-of-evs/)
は、LCAによるEVの本当のCO2排出量に関する報告になります。
この文献では冒頭で、「投資家や政治家は、EVが世界の二酸化炭素排出量を大幅に削減すると考えているが、それは決して明らかではない。」と、EV
によるCO2排出削減効果は明確ではない(場合によっては疑わしい)と言っています。
EV の生涯にわたるCO2総排出量の約80%は、バッテリー製造時と使用時の電力を作る際に発生するとしています。
これに対して、「使用時の発電を再生可能エネルギーにすればCO2は減る」といった主張があります。発電についてもLCAで考える必要がありますが、その考察は別途機会に譲ります。
また、環境負荷はCO2排出だけではありません。本当に環境負荷を減らしたいなら、CO2以外の環境負荷についても考察すべきです。さらに、SDGsの観点からは、人権などの要素も考慮しなければなりません。
話を戻します。Mark Mills (2021) によれば、バッテリー製造に関わるサプライチェーンが複雑なため、CO2排出量の数値化がそもそも困難だと主張しています。
例えば、50の学術研究を調査した論文(レビュー)によれば、EVのバッテリー1つを製造する際に排出されるCO2は8〜20トンと大きな幅があるとのことです。EV用バッテリーが作られるまでのCO2排出量は、無数の仮定に基づく推定値である、としています。
要はどのような仮定を採用するかによって、結果が大きく変わってくるということです。別の言い方をするなら、バッテリー製造までに排出される真のCO2量は、今のところ誰にもわからないということになります。
それでも、ある仮定によりCO2排出量を算出して、どれだけ環境負荷を軽減できるのかを見積もることは重要です。
具体的な見積もりの考察については、次回以降に取り上げます。