電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (3)
電気自動車(EV: Electric Vehicle)の生涯(ライフサイクル)にわたる二酸化炭素(CO2)排出量の見積りについて、今回は自動車メーカーのマツダが関与した論文と、その反論のWeb記事を取り上げます。
Kawamoto et al., 2019, Estimation of CO2 Emissions of Internal Combustion
Engine Vehicle and Battery Electric Vehicle Using LCA, Sustainability,
doi:10.3390/su11092690 によれば、
(1) 新車完成時のCO2排出量は、EVのほうがガソリン車やディーゼル車よりも多いが、走行距離が長くなると逆転する。
(2) 世界の地域により、発電方法(火力や再生可能エネルギーなど)が異なるため、EVのCO2排出量は地域で異なる。
(3) EVの普及だけがCO2排出削減の解決策ではなく、地域の特性を考慮しガソリン車やディーゼル車の利用も必要。
としています。
特に (3) は、ガソリン車やディーゼル車を生産し続けるマツダらしい結論に感じます。
これに対し、EVsmartBlog (https://blog.evsmart.net/) などEV推進派が反論しています。
この論文の内容自体に誤りはなさそうなものの、前提条件のいくつかに問題があると指摘しています。(https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/electric-is-cleaner-mazda-lca/
)
ひとつは、バッテリー製造時のCO2排出量です。論文の引用は古いデータであり、近年のデータよりも排出量が多く見積もられている、としています。
論文は2019年に発行されていますが、引用データは2010年〜2013年と確かにやや古いです。
次に、この論文では16万キロメートル走行した時点でバッテリーを交換する必要があるとしています。16万キロはメーカーの保証期間になります。
一方 EVsmartBlog は、テスラ車のバッテリー性能を調査しているある研究が、25万7千キロ走ってバッテリー劣化が10%といった結果を示していることから、16万キロ走行時点でのバッテリー交換は不要と主張しています。
そして、こうした前提条件を現実的なものに置き換えて、この論文同様の計算をした場合、日本では9万〜11万キロメートル走行した時点で、EVの生涯CO2排出量がガソリン車を下回る、としています。
6月21日付「電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (2)」では、ボルボによる見積りを紹介しています。
通常の発電方法の場合は約11万キロメートル、世界の平均的な再生可能エネルギーで供給された場合は約7万7千キロメートルが逆転する距離でした。
マツダ論文(Kawamoto et al., 2019)の前提条件を変えて再計算した EVsmartBlog による結果は、ボルボによる見積りに近いものとなりました。
となると、EVsmartBlog の結果のほうが、もっともらしいと感じてしまいます。