世論調査で世論操作(メディアリテラシーの視点から)
世論調査は本来、基本的な国民意識の動向を捉えるために行われるもののはずです。ところが、設問のしかたや順番、選択肢の内容などによって結果が大きく左右されることがあります。
ここでは、結果が左右されたと考えられる事例として、NHKによる東京オリ・パラ開催に関する世論調査を見てみましょう。
下の図は、2021年夏のオリ・パラ開催について、2020年10月から2021年5月までの月ごと(2020年11月は未実施)のNHK世論調査の結果を示したものです。(NHK選挙WEB世論調査より作成:https://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/archive/2021_05.html
など)
2021年1月までの調査では、「開催すべき」「中止すべき」「さらに延期すべき」「わからない」の4つの選択肢でした。ところが2021年2月以降は「さらに延期すべき」の選択肢がなくなり、代わって「開催すべき」の選択肢が「これまでと同様に行う」「観客の数を制限して行う」「無観客で行う」の3つに細分化されました。
この調査の結果を、2021年夏の開催について賛成か反対かで色分けした場合、2021年1月調査では「賛成」約16%、「反対」約77%となります(「延期」も2021年夏の開催には反対だからです)。ところが、2021年2月調査では「賛成」約55%、「反対」約38%となり、賛成が反対を上回ります。
「さらに延期」と考える人は、中止は望んでいないわけだから、「中止」を選ぶよりは、消極的な賛成意見の「観客の数を制限して行う」、または「無観客で行う」のいずれかを選ぶことが予想されます。このようにして、世論調査は調査する側の意図に沿った結果になるように操作することが可能なわけです。
NHKのホームページに示された質問の仕方は、2021年1月の調査では「ことしに延期され夏の開幕に向け準備が進められている東京オリンピック・パラリンピックについて聞いたところ、」とありました。これが、2021年2月には「東京オリンピック・パラリンピックの開幕まで半年を切りました。IOC=国際オリンピック委員会などは、開催を前提に準備を進めています。どのような形で開催すべきだと思うか聞いたところ、」となっていました。
「どのような形で開催すべきだと思うか」、今夏の開催は”決定事項”として質問をはじめています。そして「さらに延期すべき」の選択肢をなくし、「観客の数を制限して行う」と「無観客で行う」といった消極的な賛成意見を選択肢に加えました。質問のなかで今夏の開催を既成事実化し、さらに「延期」の選択肢をなくして、延期を考えていた人たちを消極的な賛成意見へと誘導した、といった疑念が拭えません。
2021年1月と2月の結果を比較すると、「中止」はいずれも約38%です。となると、「延長」意見だった人たちの大半が、「観客の数を制限して行う」もしくは「無観客で行う」に流れた、と考えるのが自然でしょう。
さて、放送については、放送法というものがあります。その第4条に
二 政治的に公平であること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
があります。
意見が対立していた東京オリ・パラについて、「延期」の選択肢を消した行為は、放送法第4条の四に反するのではないでしょうか。「延期」の意見を無視したわけですから、「できるだけ多くの角度から」に逆行しています。さらに、政府が推し進める「開催」の選択肢を1つから3つに増やした行為は、政治的な公平性について疑念を抱かせます。
公共放送であるはずのNHKが、政権への忖度を疑われるような世論調査を行い、それを放送したと思われても仕方ないでしょう(NHKには問題が多すぎます)。
NHKが行ったこの世論調査は、まさに、質問の仕方と選択肢の内容によって結果が左右された事例といえます。情報を受け取る側の私たち一般市民は、公共放送であるはずのNHKですら、こうした世論操作まがいのことをするのだ、という意識をもって、毎日のニュースに接する必要があります。