電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (4)
電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (2) と (3) で、ガソリン車と電気自動車(EV)の生涯にわたる二酸化炭素(CO2)排出量の比較を見てきました。
いずれの試算でも、新車時点では電気自動車のほうがCO2排出量が多いものの、9万〜11万キロメートル走行した時点でガソリン車より減少するといった結果でした。
果たして、この結果が意味するところは実際どういったことなのでしょうか?単純化したモデルで考えてみます。
下記のグラフ(Fig.1)は大和証券のホームページにあった「世界の自動車販売台数の見通し」になります。
Fig.1:https://www.daiwa.jp/products/fund/201802_ev/change.html より
このグラフから、2020年の自動車販売台数を9500万台、2050年が1億2500万台とします。
SDGsの最終目標年である2050年までの31年間に、世界の自動車が出すCO2の総量を、ガソリン車と電気自動車とで比較してみます。ここでは、現在走っている自動車のことは無視し、新車販売される車のみの影響を考えます。
Fig.1では年を追うごとにガソリン車が減り、電気自動車が増えていますが、簡単のため、毎年、全てガソリン車もしくは全て電気自動車が販売されるものとします。また、毎年100万台ずつ増えて、2050年が1億2500万台になるものとします。
https://carlease.carlifestadium.com/column/2021/01/20/車の走行距離はどれくらいが目安になる?維持費/
などでは、日本における一般的な車の年間走行距離を、10,000キロ程度としています。
一方、https://jdpower-japan.com/column/3346/#:~:text=アメリカ合衆国運輸省によると,ほど車を運転する。
によれば、平均的なアメリカ人の年間走行距離は、約13,474マイル* (約21,684キロ)です。
ここでは、年間走行距離を2万キロとし、20万キロ(10年間)走行した時点で廃車になると仮定します。
ガソリン車と電気自動車の生涯にわたるCO2排出量の値は、Volvo (2021) :https://www.volvocars.com/images/v/-/media/Market-Assets/INTL/Applications/DotCom/PDF/C40/Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf
を参考にします。
2020年に販売される9500万台の生涯にわたるCO2排出量は、ガソリン車の場合は 59トン × 9500万台、電気自動車の場合は 50トン
× 9500万台になります。2021年以降は、毎年100万台ずつ増えて同じ計算をします。
しかし、2042年以降に販売される自動車については、2050年までに20万キロ(10年間)に到達しません。2042年は18万キロ、2041年は16万キロ、・・・、2050年は2万キロ走行時点でのCO2排出量で計算します。
9万~11万キロが、ガソリン車の総CO2排出量が電気自動車を上回る分岐点なので、下表(Table1)のように、2046年以降は、逆に電気自動車の総CO2排出量がガソリン車を上回ることになります。
Table1 生涯CO2排出量比較
2020年以降に販売される自動車が全て電気自動車だった場合、2050年までに排出される総CO2排出量は、ガソリン車のそれに比べ 11.3%
の削減となります。
一方、全てガソリン車として、販売台数を2050年まで毎年9500万台のまま、とした場合はどうでしょう?
1.4% とわずかではありますが、前述の全て電気自動車の総CO2排出量より少なくなります。
2022年4月4日付の「SDGsは実現可能か?」で、LEDランプを例に書きましたが、省電力な商品であっても、使用する数量が増えてしまえば、消費電力は増えてしまいます。CO2排出量についても同様です。
また、9万〜11万キロ走行した時点で、電気自動車のほうがガソリン車より総CO2排出量が減少するということは、新車から、日本なら10年間、アメリカなら5年間は、電気自動車のほうがより多くのCO2を排出しているということを意味します。
電気自動車は作れば作るほど、完成した段階では、皮肉なことに、より多くのCO2を排出してしまいます。
そして、上記の単純な思考実験のように、減らせたとしても一割強。それよりも、生産台数を制限した方が効果的です。
使用すれば 9万〜11万キロで逆転するとはいえ、新車段階でガソリン車よりも多くのCO2を排出している電気自動車って、はたして本当に「環境にやさしい」といえるのでしょうか?疑問を抱いてしまいます。