熱海土石流災害、太陽光パネルで思い出した鬼怒川の水害

 7月3日に発生した静岡県熱海市伊豆山(いずさん)の土石流災害は、違法な盛り土が原因ではないかともいわれています。また、崩落現場近くの尾根沿いに設置された太陽光パネルの影響を指摘する声もあります。

 この災害を受けて、小泉進次郎環境大臣は山林開発などで災害を招く恐れのある太陽光発電所の立地規制を検討する考えを示しました。「太陽光パネル」「災害」の2つのワードで、私は鬼怒川の水害を思い出しました。

 2015年9月10日、台風18号の影響による豪雨で、茨城県常総市では鬼怒川の堤防決壊や越水(堤防を越えて川の水が溢れる)被害がありました。そのうちのひとつ、若宮戸地区では太陽光発電所が川沿いに設置され、丘陵部(自然堤防)の一部が掘削されていました。この掘削された状態を放置したことが越水を引き起こしたのではないか?と問題になりました。

 ただし、これには事実誤認があると、後日河川を管理する国土交通省が記者発表をしています(国土交通省関東地方整備局, 記者発表資料: 鬼怒川左岸 25.35k付近(常総市若宮戸地先)に係る報道について, 2015, https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000632481.pdf)。この土地は太陽光発電事業者の民有地だったため、土地を借用して災害が起きる2ヶ月前の7月に、掘削前の高さになるよう大型の土のうを設置した、ということです。

 また、関東地方整備局,『鬼怒川の概要』及び 『平成27年9月関東・東北豪雨』について
(https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000686491.pdf)によれば、仮に掘削前の太陽光パネルがない状態だったとしても越水していた可能性が示唆されています。下の写真はこの報告書44ページにある問題となった自然堤防の変遷の様子を示しています。1947年(左上の写真)にはあった木々に覆われた自然堤防が、1980年(右上の写真)にはすでに大きく削り取られています。

『鬼怒川の概要』及び 『平成27年9月関東・東北豪雨』について より

 坂本他 (2017)「2015年鬼怒川水害における被災 地初動応答の調査・分析」によれば、1964年の東京オリンピックや1985年のつくば万博の際に、この自然堤防が削られその砂が使われたとのことです。また、削り取られる前の自然堤防は、もっと高かったようです。どうやら、太陽光発電所ができるだいぶ前の開発行為による影響も考える必要があるようです。

 先日、偶然聴いていたラジオ番組で熱海の土石流災害を取り上げた際、ある大学教員が環境省の太陽光発電所の立地規制について、鬼怒川の水害のときにやるべきだった、と話していました。熱海の土石流でも鬼怒川の水害でも、目立つ存在だった太陽光パネルが悪者として取り上げられた感があります。もちろん、影響が全くなかったとまでは言えないでしょうが、いずれのケースでも主たる原因は別にある可能性があります。熱海の土石流では盛り土、しかも違法な盛り土(産業廃棄物も含まれていた可能性も報道されています)が主たる原因かもしれません。(ただし、今後の調査結果を待つ必要があります。)また、2015年の鬼怒川の水害では、長年にわたる開発行為まで考慮する必要があるようです。

 今回の熱海の災害では、崩壊した土地の現所有者は盛り土だったことを知らなかったと報道されています。開発が長年にわたって行われると、その行為者や所有者などが移りかわることはよくあります。災害の原因調査では、過去に遡って調べなければならない場合があります。そうした理由からも行政が記録を残すことは大変重要になります。

2021年07月12日