電気自動車と銅

 ガソリン車(内燃機関車)やハイブリッド式電動自動車(HEV)に比べ電気自動車(EV)は、車両重量が重くなる傾向があります(Fig.1)。これはバッテリーの重量によるものです。

Fig.1 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00478/00002/ より

 電気自動車は走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しません。一方で、その製造にはガソリン車以上に多くの鉱物資源が使用されます。レアメタルはもちろんのこと、ベースメタル(埋蔵量や産出量が多く、精錬が簡単な金属)と呼ばれる銅などについても同じことが言えます。

 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構「銅ビジネスの変遷 -2000年以降-」(平成30年3月)によると、バッテリー容量により異なるものの、自動車1台当たりの銅使用量は、ガソリン車 23kg、ハイブリッド式電動自動車(HEV) 40kg、プラグイン・ハイブリッド車(PHV) 60kg、電気自動車(EV) 83kg、ハイブリッド(HV)バス 89kg、電気自動車(EV)バスで 224~369kg(Copperalliance報告)とあります。
 EVでは、電気モーターの巻線や各種配線等で大量の銅が使用されます。そしてその需要の拡大が見込まれ、2017年に185千トンであった EV向け需要は、2027年には9倍以上の 1,740千トンに拡大すると予測されています。

 銅はベースメタルで資源量も豊富にあるのだから問題ないのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。ただし、その銅を採掘するには、精錬された銅の何倍もの土砂を掘らなければなりません。山を削れば、そこで暮らしていた生き物の生息地を奪うことになります。森林が伐採されることにより、表土が流出し土地がやせ細る、洪水が起こりやすくなるなどの環境変化も懸念されます。また、採掘目的の森林伐採はCO2削減に逆効果です。

  下図(Fig.2)は、TMR (Total Material Requirement) : 関与物質総量を示しています。TMRは、それぞれの資源を得るために廃棄された土砂等も含めた物質の総量になります。
 銅(Copper)は1kgを得るために、その400倍もの土砂を掘る必要があります。これが2027年には2017年の9倍以上になると予測されています。

Fig.2 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71043 より

 脱炭素原理主義者とでもいうべき「二酸化炭素さえ出さなければよい」といった思想は、SDGsに反するものです。過度の銅の採掘は、【目標15】陸の豊かさも守ろう、だけでなく、状況によっては【目標14】海の豊かさを守ろう、などにも反する行為になります。
 環境問題を考える際、脱炭素原理主義的な今の風潮は、問題解決から逆に遠ざかってしまうと危惧しています。

2022年10月31日