電気自動車への移行は欧州のエゴイズム

 ガソリン車やディーゼル車といった内燃機関車(ICE)から電気自動車(EV)へと、世界は急速に変化しようとしています。

 EVは走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから、カーボンニュートラルな社会を実現できる乗り物と、一般的には言われています。イギリスをはじめとする欧州諸国では、ハイブリッド車(HEV)も市場から締め出す方針です。
 しかし、EVは製造時にICEよりも多くのCO2を排出します。また、銅やレアメタルを大量に消費しています。

 下図は、資源エネルギー庁 (2021)「2050年カーボンニュートラル社会実現に向けた鉱物資源政策」からの引用で、自動車一台当たりの資源使用量(kg)を示しています。

図:自動車一台当たりの資源使用量(kg)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/kogyo/pdf/007_03_00.pdf より

 上から、EV(電気自動車)、PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)、HEV(ハイブリッド車)、ICE(ガソリン車等の内燃機関車)の各鉱物資源の使用量を比較しています。EV一台に、銅83kg、ネオジム0.8kg、リチウム7.2kg、ニッケル27.5kg、コバルト11kgと、5つで計129.5kgもの鉱物資源が使われています。一方、ICE車は計23.2kgです。EVは一台につき、実にICEの5.6倍もの鉱物資源を消費しています。
 また、例えば銅1kgを得るためには、400kgもの土砂等を掘り返さなければなりません(「2022年11月14日 電気自動車と銅」ブログ参照)。天然資源の採鉱は、元々あった自然環境の破壊を意味します。SDGs【目標15】陸の豊かさも守ろう、に反した行為といえます。
 さらに、コバルトの採鉱には、人権侵害や児童労働の問題があります(「2022年9月12日 電気自動車とレアメタル」ブログ参照)。SDGs【目標1】貧困をなくそう、【目標4】質の高い教育をみんなに、【目標10】人や国の不平等をなくそう、などに反しています。

 SDGs は、すべての国連加盟国が目指す目標です。にもかかわらず、イギリスをはじめとする欧州諸国は、複数の目標に反するEVへの移行をなぜ押し進めているのでしょうか。
 ネット検索をすると、ハイブリッド車(HEV)を製造できない欧州諸国が、市場から日本車を締め出すため、などといった理由が見つかります。
 「日本のハイブリッド車を世界から一掃する…英国が「完全なEVシフト」をゴリ押しするしたたかな狙い 英国には守るべきナショナルブランドがない」(https://president.jp/articles/-/64103)によれば、イギリス(英国)は自動車の世界的な国際ブランドがなく、(自動車産業がある日本などとは違って)EVシフトの障壁がないとしています。また、覇権主義的な側面も考えられ、欧州勢は気候変動対策の議論をリードし、その分野での国際的な主導権を確立したいと考えている、と主張しています。私もこの意見に同意します。

 欧米人にとってルールは "作るもの"、一方、日本人にとっては "守るもの" などと、いわれることがあります。確かに欧米人は都合が悪くなるとルールを変更します。
 1992年のアルベールビル、1994年リレハンメルと、日本は冬季五輪のノルディック複合で団体金メダルを獲得しました。日本は前半のジャンプで大量リードして、後半の距離で逃げ切るパターンで勝利を重ねていました。ところが、この後に度重なるルール変更でジャンプの比重が軽くなるといった日本に不利なルールになっていきました。勝つことができないとわかると、勝つためにルールを変える欧米人のズルさを、当時腹立たしく思っていたことを今でも覚えています。

 天然資源を大量に消費し、SDGs的にもアウトで、CO2削減もさほど役に立たないEVシフトを世界に広めようとする今の動きもまた、日本のハイブリッド技術に太刀打ちできない欧米人のルール変更に映ります。
 上図を見れば、ガソリン消費(CO2排出)を減らし、なおかつレアメタル等の鉱物資源の消費もさほど多くないハイブリッド車(HEV)が、(SDGs的に全く問題がないわけではありませんが、)次世代自動車の最適解になるのではないでしょうか。

 日本政府は、客観的な事実を積み上げ、電気自動車(EV)普及はSDGs的にアウトで、CO2削減にもさほど貢献しないことをアピールして、ハイブリッド車(HEV)こそ、今普及すべき自動車であることを世界に向けて発信しなければいけないと考えます。

 大学時代、大町北一郎先生(故人)に資源科学を教わりました。「アングロサクソンに負けるな」が先生の口癖でした。

 今の日本の政治をみると、自分の保身が第一優先で、そのためなら日本人が苦しんでも、日本の財産が海外へ不当に流出しても何とも思わない連中が、この国を差配していることが、日本人にとっての最大の不幸だと私は思います。
 日本人の利益のために、そして貧困に苦しむ世界の人たちのために、利己主義的な国々に堂々と立ち向かう政治家が日本に現れてほしいと思っています。

2023年01月02日