現在の温暖化は人間によるもの「疑う余地がない」

 先月の9日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、人間が地球の気候を温暖化させてきたことに「疑う余地がない」とする報告を公表しました。
 地球温暖化の原因が人間活動にあるといったことを、これまでにない断定的な表現を使ったとして注目されました。

 これに反応してなのか、同月17日には「気候危機説「不都合なデータ」は隠蔽 地球温暖化で災害の激甚化など起きていない、モデル予測に問題あり」といったWebニュースが「夕刊フジ」から配信されました。ただし、この記事の元は今回の IPCC の発表以前のものになります。
https://web-willmagazine.com/energy-environment/80fKL(Daily WiLL Online)
https://cigs.canon/article/20210420_5752.html(キャノングローバル戦略研究所)

 さて、この記事を誰(どこ)が配信したのか?といった視点からまずは見てみます。
 Daily Will Online は WiLL という雑誌のオンライン記事です。そして、17日に同じ内容を配信したのは「夕刊フジ」です。いずれも右寄りといわれているメディアになります。世間に広がっている地球温暖化の考えに反する考え方は、もしかしたら右寄りのメディアが好む内容なのかもしれません。

 記事の内容についてはどうでしょうか?
 この記事では、「災害は「激甚化」していない」として、台風のデータを取り上げています(図1)。

図1  気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018より

 この図は、「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~」2018年2月 環境省 文部科学省 農林水産省 国土交通省 気象庁 から引用したものです。
 確かに、台風は増えてもいませんし強くもなっていません。しかし、同レポートには以下のようなデータも掲載されています。

図2 気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018より

 この図は、日本における1901~2016年の月平均気温の各月における異常高温と異常低温の年間出現数になります。異常高温の出現数が増加する一方で、異常低温の出現数が減少している傾向がみられます。こうしたデータは、どちらかといえば温暖化を支持するデータですが、「気候危機説「不都合なデータ」は隠蔽・・・」では触れていません。

 また、記事のリードでは「災害は「激甚化」していない」とあります。気候による災害は台風だけではないのに、台風のみのデータを示して自らの主張の正しさの根拠としています。自説に都合のよい根拠だけを取り上げて、こじつけることをチェリーピッキングといいます。
 では、災害は「激甚化」しているのでしょうか、それともしていないのでしょうか?
 図3は再保険大手のスイス再保険による世界全体の自然災害の経済的被害額の推移を示しています。全体的に増加傾向がみられなくもありません。ただし、このデータには地震による被害も含まれています。

図3 http://rief-jp.org/ct2/68757

 次に、図4をご覧ください。自然災害による死者数が災害別に示されています。気象に関係するものとしては、上から2番目青色の Drought(干ばつ)、上から5番目緑色の Extream tempareture (異常高温や異常低温)、下から3番目黄色の Flood(洪水)あたりになるでしょう。

図4 https://ourworldindata.org/natural-disasters

 いずれも近年増加している傾向は見られません。むしろ、Drought(干ばつ)や Flood(洪水)では死者数が以前よりも減っています。死者数から見た場合、気象災害による「激甚化」は見られません。

 ただし、災害によるダメージは防災対策を進めることで小さくすることができます。近年、たくさんの死者を出さなくなった理由として、防災対策が進んだ可能性も考えられます。災害の「激甚化」を考える際は、何を持って「激甚化」といえるのか?といった言葉の定義をしっかりと決める必要があります。

2021年09月21日