日本地震学会2025年度秋季大会にて発表(2)
発表は通常一人一つですが、今回は特別セッション「2025年7月30日カムチャツカ半島地震」があり、二つの発表ができました。こちらはポスター発表になります。タイトルは「【再考】鯨類の集団座礁と大地震との関係」です。
なぜ、再考かといいますと、日本地震学会2018年秋季大会にて「日本周辺における鯨類のマス・ストランディングと地震との関係に関する考察」という演題で発表していたからです。
2018年に使用した日本鯨類研究所のストランディング・レコードが、国立科学博物館のストランディングデータベースに統合されたこともあり、再考することにしました。
2025年7月30日カムチャツカ半島地震の前日に、千葉県の海岸に4頭のマッコウクジラが漂着しました。
これがカムチャツカ半島地震の前兆だったのではないか、と一時SNSを中心に話題になりました。
クジラやイルカなどの海棲哺乳類が、生きたまま集団(2頭以上)で陸に乗り上げたり死体で打ち上げられたりする現象をマス・ストランディングといいます。
鯨類のマス・ストランディングが地震前兆ではないか、といわれたのは今回だけではありません。2011年3月11日東日本大震災の7日前に、茨城県の海岸に54頭のカズハゴンドウが漂着しました。このときも地震との関連がネット上で広まりました。
今回は、カムチャツカ半島地震と東日本大震災との関連が疑われた千葉県と茨城県におけるマス・ストランディングが、大地震の前兆といえるのかどうかを検証しました。
対象期間は、千葉県で記録された最も古いマス・ストランディング発生日の1923年1月24日から、今夏カムチャツカ半島で発生した地震発生日の2025年7月30日まで(37444日:約102.6年)です。
対象となるマス・ストランディングは、茨城県と千葉県で記録された鯨類のマス・ストランディング31件(茨城県:14件、千葉県:17件)です。
対象となる地震は、カムチャツカ半島地震を含めるため、かなり広範囲に設定しました。北緯4.6度から62.9度、東経101.6度から176.8度の範囲で発生したマグニチュード: M8.0 以上の地震20個(USGSのデータより)です。
先行時間(マス・ストランディングと地震との時間的な間隔)が最短となる両者の組み合わせについて、その先行時間と震央距離(マス・ストランディング発生場所と地震発生場所との距離)との関係を調べました。全部で31組になります。
上述した東日本大震災と7日前のマス・ストランディングは、先行時間7日間、震央距離約300kmでした。2025年カムチャツカ半島は1日前ですが、2500km以上と距離が離れています。もう一つ、1923年のカムチャツカ半島も先行時間は11日間でした。
一方、他の28組については、総じて時間的にも距離的にも両者には開きがありました。
この結果から考えれば、茨城県と千葉県のマス・ストランディングが地震前兆とするには無理がある、といえます。
それでも、時間的に隣接していた3事例は関連していたとの主張に対し、関連があることを証明することは難しいですが、それを否定することも困難です。
しかしながら、少なくとも、茨城県と千葉県のマス・ストランディングが、現実的に防災・減災に役立つ情報になり得るとは考えにくいということはできます。
ちなみにマス・ストランディングの月別発生は、千葉県は7月が5件と最も多く、次いで12月の3件でした。
茨城県の場合は、季節的な偏りが顕著で、5月から10月までの6ヶ月間はゼロで、11月と12月はそれぞれ1件、残りは1月から4月の4ヶ月間に集中していました(2月と4月が4件で1月と3月が2件)。
マス・ストランディングの発生原因については、特に茨城県に関しては、地震との関連を考えるよりは、季節的に違いがあると考えられる現象、例えば海流や風向きなどから考えた方が良いのではないかと思います。