【再考】3.11(東日本大震災)前の動物異常行動(1) トンビ
大地震の前に動物がいつもと違う振る舞いをしていたとする話は、地震の後によく耳にします。
2011年3月11日東日本大震災(マグニチュード9.0)の前にも、動物に異変があったとする話はあります。今回は読売新聞の記事(2011年7月2日夕刊13ページ)にあった内容について考えてみます。
この記事では「鳥」と「クジラ」を取り上げていました。「鳥」はカラスとトンビになります。今回はトンビの異常行動について考えてみます。
記事では、3月11日午前10時から正午頃、宮城県石巻市で数十羽のトンビが上空で激しく争うように飛んでいたとのことです。本震は午後2時46分ですから直前の出来事といえます。
「空飛ぶ鳥の姿が全く見えなくなる時には地震あり」各地
「天空に飛び交い舞遊ぶ鳥類の姿が見えなくなると地震あり」福島県飯坂
上記の2つは、『災害予知ことわざ辞典』(大後美保, 1985)に書かれている鳥類に関することわざです。トンビそのものに関わることわざはありませんでしたが、「天空に飛び交い舞遊ぶ鳥類」といった表現は、トンビにも当てはまるのではないかと思われます。
いずれも普段見られる空飛ぶ鳥が地震前には姿を消すといった内容です。しかし、3.11前のトンビの異常行動とされるものは「姿を消す」ことではなく、普段よりも目立つ行動でした。ことわざとは全く異なる行動といってもよいでしょう。
言い伝えられてきたことわざが必ず正しいとは限りません。例えば「海底の魚が、浮き上がるは、地震の前兆」といった深海魚出現と地震との関連を示唆するような言い伝えがあります(足助の諺調査部会,
1981)。しかし、1928年から2011年までの事例を調べた結果、深海魚出現から一ヶ月以内に半径100km 範囲内でマグニチュード6.0以上の地震が発生したケースは一例しかありませんでした(Orihara
et al., 2019; 織原, 2019; 織原, 2020)。
3.11前のトンビの異常行動については、過去の言い伝えには見当たらなかった行動です。もちろん、ことわざにないから地震に無関係とは言い切れません。しかし、トンビが上空で喧嘩することもあるでしょう。そのような状況を初めて見たとしても、それは個人の非常に限られた経験のなかのことです。トンビが上空で激しく争うように飛ぶことが大地震の前だけに見られる現象かどうかは、この記事の情報だけではわかりません。
地震前の動物異常行動とされる行動が、どれだけ珍しい現状なのか?単に地震前に見られた珍しい現象を取材するだけではなく、今後は普段(地震前ではないとき)にはどれだけ見られる現象なのかまで、是非とも取材して欲しいものです。