富士山噴火予言は煽り(あおり)記事か?

 "8月20日「富士山噴火説」。的中率9割の予言書が明示する恐怖に抗う術は"
 https://nikkan-spa.jp/1767198?cx_clicks_art_mdl=3_title
といったWeb記事を目にしました。今年の8月20日に富士山が噴火するとの予言です。

 地震予言にも当てはまることですが、このような記事の「的中率9割」と、ライターが自信を持って提示できる理由がわかりません。ある地震予言では予言を出している本人の言葉として、それを紹介していました。当事者の言や他の記事に書いてあったことについて、裏取りもせずにセンセーショナルな語句を使った記事は、典型的な煽り記事(不安を煽る記事)と考えた方がよいでしょう。

 さて、8月20日「富士山噴火説」についてお話ししましょう。この予言は漫画『私が見た未来』(たつき諒著, 朝日ソノラマ1999年刊・絶版)に書かれた著者自身が過去に見た予知夢を再現した話のようです。当たったとされる具体例がこのWeb記事にも紹介されています。ちなみに、煽り記事は通常、当たったとされる事例のみを示すものです。

 この記事では的中率9割と主張していますが、そもそも的中率って何でしょう?的中率とは、矢や弾丸が的に当たる割合から、予測や予想などが当たる割合のことを指します。この漫画では的中率9割とのことですから、10の予知夢のうち9が当たったことになります。しかし、この記事にはそれを調べた(裏を取った)形跡がありません。そもそもこの漫画はすでに絶版で、Amazon では17万円以上の値がついていました(下の画面キャプチャー参照)。そのような手に入りにくい本を苦労して入手して裏を取ることなど、おそらくしていないのでしょう。(ちなみに今年10月に完全版として復刊するようです。)

 

https://www.amazon.co.jp/私が見た未来-ほんとにあった怖い話コミックス-たつき-諒/dp/4257986999 より(画面キャプチャー)

 

 『私が見た未来』が出版されたのは1999年です。しかし、この記事で的中例として紹介されているフレディ・マーキュリーとダイアナ妃の死は、それぞれ1991年と1997年です。いずれも出版前の出来事です。後になって実は予知していたと主張することは、後予知(あとよち)などといわれています。作者が本当に夢をみた可能性は否定できないので、これが後予知だったとはいいませんが、少なくとも疑われる成功事例ではあります。

 しかも、フレディ・マーキュリー死亡の予知夢は実際の死の15年前、ダイアナ妃の場合は5年前に見た夢とのことです。人は必ず死ぬわけですから、これは(誰でもできる)必ず当たる予言のようにも思えます。

 一方、東日本大震災は2011年なので後予知ではありません。これは本の表紙にある夢日記に「大災害は2011年3月」と書かれているものに相当するようです。ただし、フレディ・マーキュリーやダイアナ妃の死、富士山噴火は日まで指定していますが、この予知夢は日の指定がありません。そうした違いがなぜあるのか気になります。

 1999年以降の予知夢とされるものがいくつあり、どのような書かれ方をされているのか、大変興味があります。また、大災害といえば、例えば2004年のスマトラ沖地震の被害者は死者22万人ともいわれています。マグニチュードも東北地方太平洋沖地震より大きいです。こちらの予知夢はなかったのか?についても知りたいところです。

 

 予言や予測が本当に当たっているのかどうかを検証する場合、予言や予測がどれだけ出されていたかだけでなく、その予言や予測の対象となる事例がどれだけあるのか、についても注意を払わなければなりません。例えばフレディ・マーキュリーやダイアナ妃のことなら、世界中の著名人が対象になる可能性があります。その場合、対象はものすごい数になります。ただ、この予知夢は死亡する月日を当てているとされています。しかし、それは後予知なら細工が可能なので、そのような疑いを払拭する意味からも、出版された1999年以降の予知夢で検証すべきです。

 「大災害は2011年3月」については、大災害の条件を定めてそれに相当する事例が対象となる期間(この場合、2011年3月を最終月として1999年出版の月からとする)にどれだけあったかを調べる必要があります。

 

 予知・予測に関する記事を読む際は、記事を書いたライターは、何を根拠にそのようなことを述べているのか?を考えてみるといいでしょう。そうした視点でこの記事を眺めると、予知夢についてライターが実際に『私が見た未来』を読んで確認した形跡が見当たりません。「的中率9割」は自分が本を読んで確かめたわけではないようだ、別の言い方をすれば、このライターは裏を取るといった記事を書く際に重要な作業をやっていないようだ、ということがわかります。

 さらに言葉の使い方もおかしいです。記事には ”「大災害は2011年3月」の文字。東日本大震災をピンポイントで予知し、” とあります。しかし、日にちまで指定していませんし、場所も指定していません。当たったとされるダイアナ妃の死などは、対象となる個人が指定され、月日も指定されています(ただし、年の指定はありません)。こうした事例と比較すると、記事内の「ピンポイント」は時間的にも場所的にも、言葉の使い方が正しいとはいえません。

 実は、年に数回雑誌等に登場する地震予測の煽り記事では、しばしば「ピンポイント」という言葉が出てきます。しかし、その大半は実際にはピンポイントではありません。この点も、煽り記事かどうかを判断するひとつの材料になるかもしれません。

2021年07月19日