大地震の事前注意の呼びかけ (1)

 去る8月19日、国が千島海溝と日本海溝の巨大地震について事前注意呼びかけの検討を始める、との報道がありました。
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210819/k10013211111000.html)

 異常な現象が観測された場合、住民などに注意を呼びかける仕組みとしては、「南海トラフ地震臨時情報」というものがあります。
 2017年、国の内閣府中央防災会議は「警戒宣言を前提とする確度の高い予測はできない」と、それまで唯一予知が可能とされていた東海地震に関しても「予知」の旗を降ろしました。そして、気象庁は同年11月から強制力を伴った東海地震の「警戒宣言」をやめて、「南海トラフ地震に関連する情報(定例と臨時)」を発表するようになりました。これにより、対象範囲は静岡県中心から南海トラフ全域に拡大した一方、強制力のない情報となりました。そして、令和元(2019)年5月31日から「南海トラフ地震に関連する情報(定例と臨時)」に替わって、「南海トラフ地震臨時情報」及び「南海トラフ地震関連解説情報」の情報発表を行うようになりました。

 「事前注意の呼びかけができるということは、やっぱり地震は予知できるの?」と思ってしまう人がいるかもしれません。予知とは、ほぼ100%の確率で、いつ・どこで・どの程度の大きさの地震が発生するかを言い当てることと考えればいいでしょう。こうした地震予知は、今の科学では不可能とされています。そして、国が既に実施している「南海トラフ地震臨時情報」や、今回の「千島海溝・日本海溝の巨大地震についての事前注意呼びかけ」は、100%ではないが従前よりは地震が発生する可能性が高くなったと考えられる段階で情報を発信するといったものです。ただし、予知ではないので、本当に発生するかどうかはわかりません。

 地震の揺れが収まる前に津波が到達してしまう地域に住む人々の命は、事前避難ができれば救うことができます。しかし、その避難が空振りに終わってしまう可能性もあります。また、避難してからしばらくたっても地震が起きず、家に戻ったら地震が発生した、といったシナリオも考えられます。こうした不確実性の高い情報を防災に活かすには、情報を発信する側(行政)と住民との信頼関係や、事前注意の情報などに関する住民の正しい理解が不可欠です。

 "「地震予知」の幻想―地震学者たちが語る反省と限界" の著者である黒沢大陸氏は、起きるかも知れないという不確かな(生煮えの)情報を提示し、役立たせる方法を考えようといった発想は、研究を役立たせることを優先させる研究者の論理、と言っています。そして、被害を減らすために何をやるべきか、住民視点での減災策から出発すべき、と主張しています。

 国には、こうした批判的な意見にも真摯に向き合い、不確実な情報の防災への活かし方を議論してもらいたいものです。

2021年08月30日