イワシの大量打ち上げと地震
地震後に「前兆だったのでは?」といった記事が今回もありました。
"地震の前兆? 浜に打ち上がった大量のイワシ…発生半日前の投稿にネット騒然" 著者:ENCOUNT編集部/クロスメディアチーム, 2025.12.10
(https://encount.press/archives/905742/2/)
これは、12月8日に発生したマグニチュード(M)7.5の地震(東北地方で最大震度6強)に関連したものです。
タイトルから、浜に打ち上がった大量のイワシがこの地震の前兆だったのでは?といった記事、と推測されます。
また、タイトルには「ネット騒然」とありますが、YAHOO!ニュースで紹介された同記事のヤフコメ数は175件しかありませんでした。「騒然」といった言葉は誇張表現といえるでしょう。
(https://news.yahoo.co.jp/articles/bcf7b6f2e3be8780ce4139808b85c0ca9c9e54f8)
さらに本文を読むと、北海道の浜辺でイワシが大量に打ち上げられたと投稿した方は原因について、「イルカから逃げて戻れなくなったらしい、との説明を受けた」とあります。加えて、「同様の出来事は過去にもあり、いずれもイルカが関係していた」と書かれています。
したがって上記の投稿は、いわゆる「釣りタイトル」の記事だったと考えられます。
さて、イワシの大量打ち上げが地震に関連しているのか?については、以下の論文にまとめています。
織原義明, イワシの大量死および大量漂着と大地震との関連性の調査, 東海大学海洋研究所研究報告, 第46号(2024), 1〜11頁
内容を要約しますと、次のようになります。
・イワシの大量死・大量漂着は、過去の新聞記事やインターネット情報および学術文献から見つけた。
・2011年以前の報告は各イベント(イワシの大量死・大量漂着)の間隔が空き過ぎているため対象外にした。
・これにより、2012年6月から2024年8月までに、計31回のイワシの大量死・大量漂着が確認された。
・地震は、気象庁一元化震源データから、日本周辺で発生した震源の深さ100km以浅でM6.5以上の地震を選んだ(余震除く)。
・対象地震は、2024年8月8日の日向灘の地震までの計32個となった。
・両者の時空間的な相関を調べたところ、先行時間が80日以内かつ両者の距離が350km以下の組み合わせが 1つもなかった。
・別の言い方をするなら、イワシの大量死・大量漂着と日本周辺で発生したM6.5以上の地震について、時間的かつ距離的に隣接している組み合わせは1つもなかった。
・イワシの大量死・大量漂着は7, 8月には発生しておらず、地域としては北海道が圧倒的に多かった。
・このような事実から、イワシの大量死・大量漂着が地震の前兆現象とするには無理がある。
先に示した記事にあったイワシの大量漂着も北海道でした。
一般的に、ある地震に前兆現象があったとする場合、その前兆は差し迫った地震の震源付近を中心に、地震発生の直前に多く現れると考えられます。
したがって、北海道に多く、7, 8月に確認されなかったイワシの大量死・大量漂着が、日本全国の地震前兆と考えるのは無理があります。