イタリアの地震雲論争 (1)
イタリアのアペニン山脈に現れる線形を示す雲(雲がある部分とない部分との境界が線状に伸びている)が地震雲ではないか、といった議論が学術誌上で展開されています。
発端は、2013年に発表された以下の論文です。
G. Guangmeng and Y. Jie, 2013, Three attempts of earthquake prediction with satellite cloud images, Nat. Hazards Earth Syst. Sci., 13, 91–95, doi:10.5194/nhess-13-91-2013
この論文では、2012年にイタリアで発生したマグニチュード(M) 6.0 の地震のほかに、ギリシャの M5.6、イランのM5.1の地震前に線形を示す雲が現れており、これがいわゆる地震雲ではないか、と主張しています。
図1: G. Guangmeng and Y. Jie, 2013 Fig.1 より引用
(左側の赤文字M6.0がイタリアの地震、その南東方向に東西方向に伸びる線形を示す雲の雲と、北西-南東方向に伸びる雲が見えます。また、右側の赤文字M5.6はギリシャの地震で、その西側に線形を示す雲の雲が確認できます。)
この主張に反論する論文が以下になります。
J. N. Thomas, F. Masci, and J. J. Love, 2015, On a report that the 2012 M6.0 earthquake in Italy was predicted after seeing an unusual cloud formation, Nat. Hazards Earth Syst. Sci., 15, 1061–1068, doi:10.5194/nhess-15-1061-2015
Thomasらは、2010年から2013年までの4年間、気象衛星のデータを用いて、イタリアのアペニン山脈に現れる線形を示す雲を23回見い出しました。次に、イタリア周辺で発生したM5.0以上の地震14個との時系列的な関係を調べました。そして、両者に明確な統計的関係性が見出せなかったと結論づけました。
さらに、線形を示す雲はアペニン山脈の地形上の特徴から生じるものではないか、と説明しています。私の解釈では、気象学で説明できる雲ということです。
また、Guangmeng and Jie (2013) では、線形を示す雲からどのようにして地震の規模や場所、発生時間が決められるのか、つまり予知できるのかが明確に示されていない、と指摘しています。
Guangmengによる反論の反論は次回に紹介します。