イタリアの地震雲論争 (3)

 Guo Guangmeng は、2021年に引き続き2022年にも、イタリア・アペニン山脈に現れる線形の雲が地震前兆だとする自らの主張の正しさを訴える論文を発表しています。

 G. Guangmeng, 2022, On the Relation Between Anomalous Clouds and Earthquakes in Italian Land_2022, Frontiers in Earth Science, 1-7, doi: 10.3389/feart.2022.812540

 2021年の論文は、対象期間中で唯一のマグニチュード(M)6超えの地震に特化した内容でした。
 今回は、雲と地震は関係ないとするThomas et al.(2015) がM5.0以上の地震を対象に考察していたことに対して、対象とする地震のマグニチュードを > M4.0, > M4.5, > M5.5 などと変えて、最も対応が良かった M ≧ 4.7 の地震を対象に議論しています。

 そして、ランダムに異常もしくは地震を発生させた場合の両者の対応と、実際の異常と地震との対応を比較したランダムテストの結果を示しています(図1)。これは、Orihara et.al. (2012) にならった手法です。

図1: ランダムテストと実際の値(雲と地震との対応)の比較(Guangmeng (2022), Fiigure4 を引用)
(ΔTは雲出現から地震発生までの時間(日)、赤色の丸はランダムテストの平均値で、青色バーは実際の雲と地震との対応の値、P95.4は2シグマを示す。)

 上図の AAR (Anomaly Appearance Rate)は、対象となる全地震に対する先行する異常な雲があった地震の割合を示します。一方、下図の EOR (Earthquake Occurrence Rate)は、全ての異常な雲に対する地震を伴った異常な雲の割合を示します。

 一般的に2シグマを超えた場合は、滅多に起こらない(偶然で起こるとは考えにくい)とされることが多いです。
 AAR(異常な雲が事前にあった地震の割合)は、雲出現から地震発生までの期間が45日以上とすると、実際の雲と地震との対応は、3シグマも超えて、滅多に起こることのない対応であることを示しています。

 この図の横軸は、雲出現から地震発生までの日数(先行時間)を表しています。ΔT≦30dayは、30日前までに異常があった地震の割合として理解できます。ΔT≦45day と ΔT≦53day も同様です。しかし、23day≦ΔT≦45day をここに示す意図がわかりませんでした。

 AARは、ΔT≦45day で2シグマのみならず、3シグマも超えています。
 一方、EORは ΔT≦45day でも 2シグマを超えることはなく、ΔT≦53day で 2シグマ同等になっています。

 この結果は、対象となる地震の数が10に対し、異常の数は21、グループ化しても17と多いため、AARの成績のほうがEORより良くなっていると考えられます。
 言い換えるなら、異常雲の出現数は対象地震の約2倍であることから、「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」になっている可能性がある、ということです。

 次に、地震のマグニチュードと異常雲の継続時間との関係図を以下に示します。

図2: 地震のマグニチュードと異常雲の継続時間との関係(Guangmeng (2022), Fiigure5 を引用)

 相関係数(Rの2乗)=0.6992であることから、一般的には「かなり相関がある」と解釈されます。
 しかし、一番右の青点(マグニチュード6.1の地震)が、他と同じグループとは考えにくい「外れ値」とみることもできます。
 そこで、M4.8地震に対応する異常雲の継続時間を7時間、同様にM4.9は16時間、M5.2は19時間、M5.3は9時間と12時間として、相関係数を計算すると 0.1730 となり、一般的には「ほとんど相関関係がない」となります。

 Thomas et al.(2015) は、アペニン山脈に現れる線形の雲は、気象学から説明できるとしています。
 統計的な検証も確かに必要ですが、Guangmeng は、地震前兆とする線形の雲の成因は、気象学からは説明できないことを示す必要があると感じています。

2024年07月31日