日本地震学会2024年度秋季大会にて学術発表

 10月21日〜23日に新潟市の朱鷺メッセで開催された日本地震学会2024年度秋季大会にて学術発表を行いました。
 タイトルは「イワシの大量死・大量漂着は地震の前兆なのか?」です。

 本年の1月1日に発生した能登半島地震では、その19日前、北海道江差町と三重県志摩市で発生した「イワシの大量死・大量漂着」が、この地震の前兆現象だったのでは?といったことが、SNSや一部週刊誌で話題になりました。
 果たして、イワシの大量死・大量漂着は地震前兆といえるのか?について、過去に発生した「イワシの大量死・大量漂着」と、日本周辺で発生したマグニチュード: M6.5 以上の地震との対応から検証しました。

 イワシの大量死・大量漂着は、新聞記事やネット情報、学術文献から拾い集めました。2012年から2024年までは、毎年1回以上のイワシ大量死・大量漂着が見出されましたが、2011年以前は2001年まで見つけられませんでした。そこで、対象期間は2012年6月4日のイワシ大量死・大量漂着から、2024年8月8日の日向灘の地震までとしました。
 約12ヶ年2ヶ月のうちに、イワシ大量死・大量漂着は31回、M6.5以上の地震は32回(余震除く)となりました。

 ある地震 (EQ1) と、時間的にその次の地震 (EQ2) との間で発生していたイワシ大量死・大量漂着を、すべて EQ2 の異常としたところ、イワシ大量死・大量漂着(異常)と地震との対応(組み合わせ)は、全部で53通りになりました。
 そして、各々の「異常-地震」の先行時間(異常から地震発生までの時間)と、震央距離(異常発生場所と地震までの距離)を調べたところ、先行時間80日以内かつ震央距離350km 以内の「異常-地震」は、ひとつもありませんでした。

 地震前の動物異常行動などの宏観(こうかん)異常現象を扱った先行研究では、異常現象は将来発生する地震の震源近くで多く見られ、かつ時間的にも発生直前に多いといったことが示されています。
 この先行研究が正しいとするなら、イワシ大量死・大量漂着は、地震の前兆現象ではない可能性が高いといえます。

 私の発表に対し、「全てのイワシ大量死・大量漂着が取り上げられたとはいえないカタログで検証すること自体、意味がないのでは?」といった批判がありました。
 今回、誰もやったことのないイワシ大量死・大量漂着のカタログを作成したわけです。できる限り調べたつもりですが、取りこぼしがないとまでは言い切れないのも事実です。

 しかし、研究すること自体に意味がないとするなら、古地震の研究なども無意味な研究になってしまいます。
 古文書や地層などから新たなことがわかれば、古地震のカタログは更新されます。それでも、過去に起きた全ての被害地震を網羅しているわけではありません。というか、網羅しているかどうか自体がわからないでしょう。
 また、日本列島の地震に対する危険度が公表されていますが、これも新たな活断層が見つかるなどすれば更新されていくわけです。

 科学は進歩していくものです。それを否定するようでは、科学者とはいえないでしょう。

2024年10月24日