日本の地震防災を問う(1) 南海トラフ地震の発生確率は変更すべきか?
現在、南海トラフ地震の発生確率は、70〜80%が公式見解です。
しかし、この70〜80%という高い確率は、南海トラフ地震を特別扱いにしたための数字であることは、世間一般にはあまり知られていません。
他の想定地震と同様の評価方法を用いると、平成25年1月1日から30年間に地震が発生する確率は、6〜30%です。
(地震調査研究推進本部地震調査委員会, 南海トラフの地震活動の長期評価(第二版), 平成25年5月24日)
特別扱いした算出方法では、平成25年1月1日から30年間に地震が発生する確率は、60〜70%でした。
そこで、単純に10%加えれば、現時点の南海トラフ地震の発生確率は、16〜40%ということになります。公式見解の半分程度まで下がります。
通常、地震の発生確率は平均活動間隔から導き出されます。
しかし、特別扱いした算出方法による南海トラフの70〜80%は、時間予測モデルというものを使っています。
時間予測モデルとは、地震の規模は断層上のすべり量に比例するとし、前回の地震の規模(すべり量)から、次の地震までの発生間隔が予測できる、とするモデルです。規模が大きな地震のほうが、次の地震までの間隔は長くなります。
過去繰り返し発生している南海トラフの地震では、1707年宝永地震、1854年安政地震、1946年昭和地震のときの室津港(高知県)における隆起量の記録が残っています。
下図は室津港における南海地震時の隆起量と地震発生間隔との関係を表したものです。階段状の赤線の縦軸が地震によって隆起した量を、水色の線は地震時の積算隆起量の平均隆起速度を示しています。
図:室津港における南海地震時の隆起量と地震発生間隔との関係
(南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)より引用)
この時間予測モデルによれば、次回の南海トラフで発生する大地震は昭和の地震の約90年後、つまり、2036年前後ということになります。あと十数年で次の南海トラフ大地震が発生することになります。
時間予測モデルでは、上図にあるように平均隆起速度が13 mm/年となります。別の言い方をするなら、平常時に室津港では13mm/年の速度で沈降していることになります。しかし、国土地理院(1972) によれば、水準測量から推定される室津港付近の沈降速度は 5〜7mm/ 年で、大きく異なります。
このように、室津港の記録に疑義があることに加え、広範囲に及ぶ南海トラフ地震の発生確率をたった一ヶ所の記録だけから算出していいのか?といった疑問などもあり、時間予測モデルを適用することに対して、以前から問題視する声はありました。
しかし、「今さら変更できない」「変更したら混乱する」「防災上は変更する必要はない」などの声に押されて、今後30年以内の南海トラフ大地震の発生確率70〜80%は、そのまま使われているようです。
この南海トラフ地震の発生確率の問題については、小沢慧一(著)『南海トラフ地震の真実』に詳細が記されています。